CITRON.

のん気で内気で移り気で。

お菓子はやらぬ。いたずらもするな。

駅の構内に、具合が悪そうに座り込んでいる女の子がいた。
年齢は、おそらく10代後半から20代前半。この寒い朝にミニスカートで、駅の床にぺたりと座り込んでいる。片手にはスマートフォン。この距離では表情の細かいところはよくわからないが、斜め上を向いた顔の角度が、呆然としている人のように見せる。
近づくにつれ、顔がとても青ざめていること、どこかで転んだのか太ももと二の腕から出血していることがわかってくる。これはちょっと問題なのではないか。僕は知らない人に話しかけるのに決死の覚悟を必要とするタイプなのだが、そういうことを言っていられないような状況かもしれない。彼女に直接話しかけるか、駅員を探すかしたほうがよさそうだ。
手のひらに「人」という字を3回書いてぺろりとなめる。

やや足早に彼女に近づき、その状況がより詳細に見えてくる。そこから感じる違和感と今朝のこのタイミングから、その正体が、

一晩遊んで疲れきってしまったケガ人メイクの女の子

……なのではないか、と推測されたとき、僕の中では一生ハロウィンは定着しないという確信を持ったのであった。