CITRON.

のん気で内気で移り気で。

それはきっと昭和の響き。

出勤時、最寄り駅に着いたところで定期を忘れていることに気付く。
一瞬、切符を買って会社に行こうかとも思ったのだが、そのために必要な費用をカチャカチャチーンと計算すると往復で900円くらいになることがわかり、まっすぐ帰宅したのであった。
会社に行くということはつまり、お金を稼ぎに行くということだ。それなのにお小遣いが900円もなくなってしまうというのは本末転倒なのではないだろうか。それでなくても今月は飲み会が多い。無駄な出費はできるだけ抑えるべきた。それに、そもそも僕は始業の1時間前には会社に到着するような電車に乗っているのである。このタイミングで自宅に戻ったところで遅刻するわけでもない。ただ、確実に座れるお気に入りの電車に乗れなくなるだけだ。

そもそも、余分に歩くのも電車で座れないのも、考えようによっては悪いことばかりではない。ほんの少しかもしれないが運動にはなるだろうし、電車でつり革につかまった姿勢で腰をひねればストレッチになるかもしれない。腰痛を抱える身としては入念に行う価値があるだろう。思わぬアクシデントからはじまった今日という日ではあるが、朝からそれなりに有意義なものを得たと言ってもいいのかもしれない。

……というようにポジティブになれない僕は、「えいちくしょうめ」などとつぶやきながら家路を急ぐのであった。まだ時間には余裕があるのについ急ぎ足になってしまう自分の気の小ささにあきれながら。

ところで、暗算をすると頭の中でカチャカチャチーンという音が鳴るのだが、これはいったい何の音なのだろう。昔は知っていたような気もするのだが、いつの間にかすっかり忘れてしまった。大昔のレジの動作音かなんかなのだろうか。

今月のチャレンジャー。

ちょろっと残業をして、さてそろそろ帰ろうかというタイミングで飲みに誘われる。
我が家には「誘われた飲み会には極力参加すべし」という家訓があるので当然のように参加した。この家訓を作ったのはウチの奥さんで、若かりし頃に上京して就職した会社が、運悪く「午後10時まで残業してもまだ2時間は飲めるよね」というような酒飲みの集団だったのだ。必然的に酒飲みになった彼女と出会った頃の僕は20代半ばで、日常的にお酒を飲むという習慣はまだなかった。以来、僕は彼女のマネをしてお酒に親しむことになり、そのへんのルールについては彼女の言うことを鵜呑みにしてきたところがある。

ここのところなぜがやたらと外で飲む機会が多く、先週も先々週も、あさっても来週も再来週も飲み会があるのである。外でお酒を飲むのが好きな人にとってはたいしたことのない頻度なのだろうが、自分史上ということでいうと前代未聞だ。僕にも、もっと頻繁に飲み歩いていた時期がなくはないのだが、それはもう20年も前のことだ。

体がだるく、ため息やトイレで放出する排泄物がいちいち酒くさいような気がする。身体中にアルコールがしみこんでいて、満員電車でもみくちゃにされたら摩擦熱で発火しそうだ。
実際のところ、それほど大量に飲んでいるわけではないのだが、若い頃にくらべて、お酒が身体に残りやすくなったということなのだろう。

ところで、我が家には上に書いたような家訓があるので飲み会への参加自体は奨励されているのだが、だからといって補助金とか手当のようなものがもらえる制度があるわけではない。
目下のところそちらのほうが大問題で、財布の中をチラリと見ながら「今月はなかなか高難易度だぞ」などと思ったりしているのだ。

自分史上最強オノマトペ。

今朝、テレビのお天気お姉さんが「コートを着てもいいくらいの寒さ」と言っていたので、
「いやいやさすがにそれは大げさなのでは。草生えるかよ」
と、なんとなく使ってみたくなった最新のネット・スラングを混ぜ込んだコメントを発しつつ玄関のドアを開けて、
「寒いやないかーい」
とノリツッコミをしてしまうくらいに今日は寒かった。
すでにここに至るまでにいくつか間違った言葉の使い方をしているような気がするが、そういう細かいことが気にならなくなるくらい、寒かった。
時々、自分は変温動物なのではないかというくらい、気温と僕のパフォーマンスは密接に関連していて、寒いといろいろなことを考えることがおっくうになり、暑いといろいろなことがどうでもよくなる。雪が降るくらい寒い日に目覚ましをかけずにフトンに入ったら、そのまま春になるまで眠っていられるような気がしてならない。

こういう日にはあちこちで咳をしている人を見かける。
ひとくちに咳といっても、コホコホとかコンコンとかいうような軽いものからはじまって、重たいというかなんというか、セキと一緒に内臓も出てくるのでは、というような重量級サウンドのものまである。

娘がまだショットグラスに入るほど小さかった頃、熱が出たとか突然嘔吐したとかいう理由でかかりつけの小児科に連れて行くと、必ずといっていいほど咳の音を聞かれたものだ。
その時に、医師が使用する擬音がとても秀逸で、はじめて聞いたときにとても感心したのである。それが医療界でよく使われるものなのか、その医師オリジナルなものなのかわからないが、それは、
「ぜろぜろとした咳は出ますか?」
……というもので、そう言われてみると「ぜろぜろ」と表現するのが一番ふさわしい咳というのは確かにあって、その時の僕は(なぜがやや興奮気味に)、
「そうですそうですそのぜろぜろですっ」
と答えたような記憶がある。
とはいえ、最近とんとそういう咳の音を聞くことがないので、「ぜろぜろした咳」というのは子供特有のものなのかもしれない。

……というようなことを書いていたら鼻水がたれてきた。僕も含め、体調を崩しちまった方におかれましては、どうぞご自愛くださいね。