CITRON.

のん気で内気で移り気で。

ピンクとミドリ。

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まさか、自分の人生の中で、ペンライトを買うことになるとは思わなかった。ペンライトとは、アイドルのコンサートなどで観客が手に持って振る、光る棒状のアレのことである。

今週末、娘が応援しているアイドル・グループのコンサートがあるのだ。
娘としてはぜひ参加したいところなのだが、相当なレベルの方向オンチなので一人では現地にたどり着けそうにない。そういう現状認識からはじまり、なんだかんだといろいろあった結果、僕が娘を現地まで連れて行くことになり、コンサートが終わるまで半日待ってるのもアレだよね、という話が出て、「まあ、これもいい機会ということで」という感じで一緒にコンサートも観る、ということになってしまった。こういう書き方をするといやいや行くようにみえてしまうかもしれないが、そのグループのアルバムを常に何枚かウォークマンに入れているくらいには興味があるので、実はわりと楽しみなのである。わざわざ公表するようなことではないかもしれないが、このグループのコンサートを観るのは初めてだが、主演した映画も主演した舞台も娘と観に行ったことがある。冷静に考えると、それなりにファンなのかもしれない。

最初はペンライトなど買うつもりはなく、手ぶらで鑑賞するつもりでいたのだが、この手のコンサートについては僕より詳しい娘の話によると、「それは絶対にやめたほうがいい」ことなのだそうだ。
「応援しているメンバーのグッズを身につけろとまでは言わないけど、手ぶらは逆に目立つからやめたほうがいい。確実に周囲から浮くし、他の熱心なファンに鼻で笑われる」
……つまり、そのグループに対する本気度を疑われるようなことはやるべきではない、ということだろうか。想像以上に厳しい世界だ。
まあ、知らない人に鼻で笑われるのはなんとなく心外だし、あまり浮いてしまうのも落ち着かない気持ちになりそうだし、僕にアドバイスをくれた時の娘の顔には「アイドルのコンサートをなめてもらっては困るのだよ」と太字で書いてあったので、ひとまずペンライトを購入することにしたのである。
そういえば、娘は愛用のペンライトを「ブレード」と呼んでいる。直訳すれば「刃」だ。ペンライトの商品名が元になった呼び名らしいのだが、なんとも勇ましい。

僕のペンライトは、娘のそれに比べると小型のものだ。大きさを表すための例えとして思いついた表現が「古い洋画でマフィアのボスがくわえている葉巻くらい」というものなのだが、うまく伝わるだろうか。
小型だけに機能も控え目で、ただ光るだけである。というか、ペンライトに機能差というものがあることをはじめて知ったのだが、娘のは光の色や明滅するパターンを変えられたりするらしい。さらに上位機種になると、それらのコントロールスマートフォンで出来るというから恐れ入る。
小型で安い分、ピンクに光るのと緑に光るのを一本づつ買った。僕と娘が応援しているメンバー、いわゆる推しメンの担当色だ。

ところで、僕のペンライトには、延長用の持ち手部分が付属している。それをペンライトの持ち手の部分に装着すると、持ち手に菜箸くらいの細い棒が追加されたような状態になる。長さは3センチくらいだろうか。
説明書によると、この細い持ち手は、片手に複数本のペンライトを持つときに使うらしい。指の股部分にはさんで持つために細くしてあるのだ。
「熊手みたいな」というか「ジュアッグみたいな」というか、とにかくそういうような状態でペンライトを持ち、振り、応援するのが熱心なファンというものらしい。それに比べると、僕なんかはしょせん、ただの「それなりのファン」である。その事実について、特に悔しかったりうらやましかったりはしないものの、感心はした。
説明書では、その付属品はこう呼ばれている。

「ファイター・グリップ」

これを持つ者はただのファンではない。ファイターなのである。
両手の指の股にはさんだペンライトを構える戦士たち。

アイドルのコンサートとは、僕が思うよりもずっと気合と闘争心を必要とするものなのかもしれない。