会社のトイレが混んでいて、個室を使いたくても空きがない場合、並んだドアの近くで待つことがある。
時間帯によっては、それほど広いわけでもないドア付近のスペースに三人くらいの待ち行列ができたりする。待っている人々は、ぼんやりと虚空を見つめたりぼんやりと手のひらを見つめたりぼんやりとスマートフォンをいじったり、とにかくひまそうに過ごしていることが多いのだが、先日、その待ち行列の中に、缶コーヒーを飲んでいる人を見かけて以来、僕の中でなにかモヤモヤした気持ちが発生し、今に至るのだ。
トイレで缶コーヒーである。
反射的に「それはちょっといかがなものか」と思ってはみたものの、ではなにが「いかがなものか」なのかよくわからなくなってしまったのだ。
これがその辺の公園にある公衆トイレならまだしも、ここは会社のビル内なのである。毎日専門の業者の方がキレイにしてくれるわけで、ここで缶コーヒーを飲んだところで衛生的な問題が生じるとは考えにくい(ひょっとしたら、ろくに掃除もしない自分の席の方がよほど不潔かもしれない)。床も便器も洗面台も、常に一定以上のレベルでキレイな状態であるといっていい。排泄物を扱う場所ではあるが、ドア前待ち行列スペースでそれを意識することはまれだ。
じゃあ、いいじゃないか、トイレで缶コーヒーくらい。ドアの前だし。
という気もしてくるが、今度はじゃあどこまでが「いいじゃないか」なのかが気になってくる。
トイレで缶コーヒーがいいのなら、トイレでおにぎりはどうたろうか。
もちろん、ドアの前だ。
とりあえず僕は、トイレの待ち行列で飲食する気はないのだが、前に並んでいる人がもりもりとおにぎりを食べていて、その人に、
「何で食べないの?」
などと聞かれた場合、とっさに上手く答えられるだろうか。
なんだか自信がないのである。