CITRON.

のん気で内気で移り気で。

ハリネズミ、手ぶらで帰る。

今日から7月で、7月といえば夏といってもまあ差支えない。
だから今日という日が暑くても文句を言える筋合いではないのかもしれないが、気温30度を超えた街をてくてくとひたむきに歩き、到着した図書館で予約していた本を引き取ろうと思ったら「返却が遅延している本があるので貸せません」というようなことを言われると少なからずくらっとする。

問題の本については、何週間か前に返したような気がしていたのだ。ただ、自分の記憶ほど信用ならないものはないので、これは僕の勘違いなのだろう。僕の中では、わりと素直に「ああ、やってしまった」と納得したのだが、若い女性の司書さんに言った「ごめんなさい。返したものだと思い込んでました」というセリフがちょっと想定外の受け取られをしたようで、「返却手続きのミスがあったかもしれません。もう一度、書庫を調べてまいります」という展開になってしまったのは申し訳なかった。司書さんはとても真面目そうな人で、顔が小さくて、ショートカットで、メタル・フレームのメガネがよく似合っている。なんとなく、体がキビキビと動きそうな印象も受ける。
僕の「いやたぶん僕の勘違いだと思うので」という言葉は書庫に向かって突っ走っていった司書さんには届かず、数分後にすまなそうな顔をしながら「やはり書庫には戻っていないようです」というようなことを言われてしまった。お互いにぺこぺこと頭を下げ、手ぶらで図書館を後にする。

返却が遅延している本があると、新たに本を貸してもらえなくなる。帰宅したら真っ先に捜索を開始しなくてはならない。
今日、借りれなかった本は、ある友人から教えてもらったもので、主人公がなんとなく僕に似ているそうなのだ。ちなみにその主人公は「人見知りでひとりでいるのが好きなんだけど、すさまじい妄想力を持っているハリネズミ」とのことだ。そこそこの年月を生きてきたが、ハリネズミに似ていると言われたのはたぶんはじめてだ。これはぜひ読んでみたいのである。