CITRON.

のん気で内気で移り気で。

鏡の中のスヌーピー。

鏡の向こうから、スヌーピーがこちらを見ている。
すました顔をして、蝶ネクタイをして、片手にはコーヒーカップ。
僕はといえば歯を磨いていて、なんとなく、ぼんやりと鏡を見ていたところだ。最初は歯を磨いている自分の顔を見ていたのだが、その時間は5秒ともたなかった。いくら見ていても飽きないというような魅力を(残念ながら)感じることができないそれは、単に「見飽きた顔」でしかなかったのだ。
残念な「それ」から視線を下にずらすと、そこにいたのがスヌーピーだった。彼(男の子だよね)は僕のTシャツの中にいて、相変わらずすました顔をしたままだ。このTシャツは何年か前ユニクロで買ったのものだ。ユニクロといえば、年に一度、いろいろな企業のロゴの入ったTシャツが発売されるのだが、「今年はどんな会社が選ばれたのかしら」などと確認するのを個人的な年中行事にしている。

2本足で立ち、その上歩行までするスヌーピーに対抗できるペットといえば、個人的には『じゃりン子チエ』というマンガに出てくる小鉄という猫を思い出す。小学生くらいの頃、僕はこのマンガが大変好きで、最初のほうの巻は暗記するくらい読んだと思う。人間や猫たちの会話がとても面白くて、ある意味、僕の日本語の先生みたいなところがあった。
その面白さは、僕の中に跡形もなく溶け込んでしまったので、今となってはその面白さだけを取り出して、それについて説明することができなくなってしまった。

ところで、僕は歯を磨きはじめるとその場から動けなくなる。どうやら唾液の分泌量が比較的多いらしく、うっかり移動すると口内からこぼれるリスクが高まるのだ。
世の中には歯を磨きながらテレビを見るとか、歯を磨きながら本を読むとかいう人が少なからずいるようだが(というか家族にそういう能力を持つ者がいるのだ)、僕からしてみるととんでもない話だ。
どこかのミュージシャンが、唾液の分泌量が多い人間はノドが強い、というようなことを言っていたような気がするが、僕としては、特にノドの強さが必要な商売もしていないし、休日にノドの強さを披露することもないので、強さほどほど、唾液もほどほどという人生を、可能ならば選びたかった。

というわけで、今朝はじっとスヌーピーと見つめ合っているのである。