CITRON.

のん気で内気で移り気で。

眠ってる顔が一番好きだから。

ベッドに上ってきた犬が、頭を激しく降っていた。
それはパンク・ロックだかハード・ロックだかのライブ会場のような激しさで、激しく上下する顔面は、フトンに打ちつけられている。その動きは延々と続き、何かに憑かれたようにも見えて、少し怖い。
もしかすると、突然、なんらかの奇病にかかってこのような行動をしているのかもしれない……というようなことを考えて、とりあえず声をかけてみる。とはいえ日本語の返事がもらえるわけでもないのだが、こちらを向いたその顔をみると、なにやら困った様子だということはわかる。

ふと思いつき、左の手のひらで下から軽く顔をつかみ、右手で彼女の額から鼻筋のあたりをこりこりとかいてみる。ただの思いつきでやってみたことなのだがどうやらこれは正解だったようで、彼女はすぐにおとなしくなり、次第に体の力が抜けていき、数分後には寝息をたてていた。つまり、顔がかゆかったのだけれど、自分ではうまくかけなかった、ということらしい。

犬の寝息を聞くのは、なんだか気分がいい。
もっというと、人間の寝息を聞くのもいい。
「眠っている時の君が一番好きだ」
……というような歌を歌っていたのはフィッシュマンズだったっけ。

「すー」とか、
「すいー」とか、
「すーーーしーーー」とか、
音色には個人差があるけれど、安定した呼吸の音を聞いて、その音を生み出している寝顔を眺めていると気持ちが落ち着いてくるというのは、わりと想像しやすいというか、それほど難しくない理屈で説明できそうな気がする。

頬杖をついて犬を眺めていたら、ふと目覚めた彼女が立ち上がり、僕の鼻をべろりと舐めたあと、違う寝相でまた寝てしまった。
犬のいいところは、寝顔をまじまじと見られても、人間のように恥ずかしがったり怒ったりしないところだ。

僕も眠たくなってきた。