CITRON.

のん気で内気で移り気で。

図書館とビールと最後の桜。

少し興味があって、試しに読んでみたいんだけど、おそらく買うことはないだろう、というような本があったので、それを見に図書館に行く。
その図書館は自宅から一番近い繁華街の端にあり、駅から歩くと10分ちょっとかかる。何年か前までは毎週のように通っていたのだが、いつからかあまり足を運ばなくなってしまった。ここ数年で急激に目が悪くなってしまったので、そもそも文字を読むということから気持ちが離れていた時期があったのだ。

その図書館にはパソコン持ち込み席と呼ばれる区画があり、その名の通り、そこではパソコンを持ち込んで作業をすることができる。LANケーブルを持参すればインターネットに接続することもできるので、なかなか便利だった。図書館の蔵書とインターネットの情報を駆使して僕がなにをしていたのかというと、まだ文章とは呼べないような、文のカケラのようなものを書き散らしていたのだ。圧倒的な資源の無駄づかいといっていい。

ちなみに当時はパナソニックのレッツ・ノートというノートパソコンを愛用していたのだが、ある日、娘に踏まれて壊れてしまった。寝転がってパソコンを操作していた僕が悪いのだが、壊れた液晶画面は実に独特な虹色になるということを知ることができたのは収穫であった……というのはもちろん負け惜しみで、失われた数々の(そしてくだらない)テキストファイルのことを思うと「馬鹿馬鹿しさに忠誠を誓う」者としてはいまだに胸が痛い。

目的の本を見て、それなりに満足して本棚に戻した後、久しぶりに来館した記念に1冊本を借りることにした。相変わらず目は悪いままだが、字が読めなくなったわけではない。速度さえ落とせばまだ本は読める。わーははは、世の中には僕に読まれることを待っている本が山ほどあるのだよ。いつまでも「気持ちが離れて」いる場合ではないのであるよ。
……という、わけのわからない覚悟のようなものができたのはここ数年の収穫である。これは負け惜しみではなく。
選んだ本は村上春樹の『ノルウェイの森』だ。図書館の本棚を端から端まで眺めていて、たまたま目に付いたのである。チョー有名なわりには読んだことがなかったので、これも何かのご縁ということで選んでみた。その程度の動機でも、タダで本が読ませてくれるのだから図書館とはいいところだ。

図書館からの帰り道、大きな公園で散りゆく桜を見ながらビールを飲む。この後、買い物に行く予定があるので今回はビールはガマンしようと思っていたということを、ビールを飲んでいる最中に思い出した。
青空の下にゆったりと座れる公園があって、芝生は緑で桜はピンクで、陽射しはあたたかく、おまけにビールを売る屋台がそこにあるのだから、これはもう不可抗力なのかもしれない。この後の買い物があるといったって、そんなに難しいものを買うわけではない。少しビールを飲んだからって支障はないだろう。ただし、店員さんは「酒臭い客キター」とか思うかもしれない。その節はごめんなさい。

それにしても、天気のいい昼に外で飲むビールはどうしてこんなに美味いのだろう。

そういえば、僕は「あおぞらビールクラブ」の会長なのである。限りなくバーチャルなものであるにもかかわらず、会員が数人いるという、ちょっと不思議な立ち位置のグループだ。
活動内容は、よく晴れた青空の下で、美味しくビールを飲むこと。会員たちは空の下でつながっているので、特に集まる必要はない。入会手続き不要。会費は無料。ただし未成年は入らないほうがいいと思う。
ちなみに略称はA.B.C.だ。