CITRON.

のん気で内気で移り気で。

わたくしの主成分。

テレビのスイッチを切ろうとして間違って部屋の電気を消してしまった場合、その行動の正解率はどれくらいと判断すればいいのだろう。
両者とも、そこに流れている電流を遮断するという意味ではそれほど遠くない行動のような気もするが、それに使う機器がリモコン(正解)と壁のスイッチ(不正解)と大きく違う。

自分で部屋の電気を消したにもかかわらず気持ちはテレビを消したつもりになっていたので、いきなりまわりが暗くなった意味がわからず「うわっ」というような叫び声を上げてしまった。叫んだ直後に口を押さえ、まだ眠っている家族(犬含む)に気付かれなかったことに安心した後、両手を水平に広げるようなポーズをしながら「セーフ」とつぶやいてみたりして、早朝からずいぶんと疲れてしまった。

僕は元来うかつな人間で、この手の失敗はわりと多いのだが、その理由はおおむね、考え事に気を取られているからだ。
そもそも僕は寝ている時以外はだいたい考え事をしているように思われる。それも、口に出せないくらいくだらないことばかりだ。
くだらないことを考えていない時はよこしまなことを、よこしまなことを考えていない時はいかがわしいことを考えている。いかがわしい事を考えるのにも飽きた時、「じゃあ、たまには」という感じで立派なことを考えることもある。僕の感覚で言うと、「無心になって」とか、「頭をからっぽにして」という表現は言葉のアヤのようなものだ。
僕の頭は常に働いているのだが、その内容が内容なので発表する勇気がない。時々、こんなにくだらないことばかり考えていていいのだろうかと思うことがある。

世の中にいる僕と同年代の大人たちは、こんなにもくだらない、もしくはよこしまな、もしくはいかがわしいことを考えているのだろうか。もしかしたら、僕だけ、他の人とは桁違いに、くだらないことで頭がいっぱいなのではないだろうか。
……たまーにそういうことを考えて、心配になったりもするのだが、そのへんの思いについては今のところ自分ひとりの胸の内にそっとしまっておいてある。

たとえば超能力者が本当にいたとして、僕が心底恐ろしいと思うのは、目からビームが出る人でも、触れてもいないものをたやすく破壊する人でもなく、僕が考えていることを読み取ることのできる人だ。
「ふふふ、あなたの考えていることなんてすべてお見通しよ。まあ、昼間からそんなことを考えていたなんて」
などと耳元でささやかれたりしたら、その後、生きていくのをあきらめてしまうような気がするのだ。