CITRON.

のん気で内気で移り気で。

もうどきどきがとまらない。

治療中の歯に仮にかぶせてあるフタというか詰め物のようなものがぼろりと落ちた。
そのせいで口内いっぱいに消毒液の匂いがひろがっているのだが、わりと好きな香りなのでけっこう苦にならない。ってまあ、だからなんなんだという話ではある。

午後、献血に参加する。年に2回、会社の会議室だかなんだかを使用して開催されるのである。
問診で、

「採血中にどきどきしたりそわそわしたり気分が悪くなったりすることはないか」

というような質問をされるのだが、正直に、

「どきどきしてそわそわしています」

などと答えるとやっかいなことになりそうなので、毎回、

「いえ全然」

というような内容の返事をしている。
採血とは、体内にそこそこの長さの針が数分間埋め込まれるということである。
これが普通でいられるか、というのが僕の正直な見解だ。気分が悪くなるということはないが、「もしも何かとんでもない手違いが起こって、体内で針が折れたら」とか「体内から抜き取られた血を採血マシン本体に届けるための管に、誰がが手や足をひっかけたりしたら」みたいなことを考え始めると、正体不明の「ふへへへへ」というような笑いがこみあげてくる。その笑いをがまんしようとして妙な百面相を駆使している僕の挙動を目撃して、気分が悪くなる人がいるかもしれない。

最近、使っている目薬が変わったので、問診の時に提示して調べてもらう。目薬といえどもナメてはならず、モノによっては献血不可、ということもあり得るのだ。
調べてもらった目薬に問題はなく、僕の血はまだ何かの役に立つということがわかった。これでいつお腹を空かせて行き倒れになった吸血鬼に出会っても安心して、

「いいですよ、400ミリリットルまでなら」

と言いながら首を差し出せるというものだ。