CITRON.

のん気で内気で移り気で。

そのグラデーションを何という。

出社時、つまり朝の6時ちょっと過ぎの空がだいぶ明るくなってきた。相変わらず寒いが、ついこの間までのように、真っ暗な中を歩くよりはずいぶんマシな気分ではある。

空には爪の切りカスみたいな月が見える。
明るい空に月を見つけると、なんとなーくもうけた気持ちになるのは子供の頃からそのままで、思わず「おお月だ月だ」と言ってみたりする。感想についてのボキャブラリーが少ないと思う。

地平線近くの空は薄いオレンジ色で、そこからてっぺんに至るまでにだんだんと色を変える。オレンジから白、白から青。「おお綺麗だ奇麗だ」と思わず言ってしまい、なにかを褒めたり称えたりするための語彙の少なさに改めて感心する。
この空の色の組み合わせはどこかで見たことがある。たぶん、カクテルにこんなようなグラデーションのものがあったはずだ。
お酒を飲む店でバーテンダーが作ってくれるようなカクテルを飲んだことってあっただろうか、というようなことをふと思う。
そういえば、最寄りの繁華街にカクテルを200円だか300円だかで飲めるバーがあるようなことを聞いたことがあるような気がする。森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』に出てくるバーのモデルになった店の支店だったかなんだったか。
なんにせよ、こんな寒い朝にカクテルのことを考えても心はあまり動かない。時々静かにたれてくる鼻水のほうがよほど今の僕の心をつかんでいる。もしかしたら寒い日にこそ飲むカクテルというものもあるのかもしれないが、会社に行く日の朝は、確かお酒を飲んではいけないはずだ。

寒い寒いとつぶやきながら、ヘッドフォンから流れ込んでくる音楽にあわせて少し大げさに首を振ってみたりする。もしかしたら少しは温まるかもしれない。

あー。
ふざけたくてふざけたくて仕方がない。