CITRON.

のん気で内気で移り気で。

無味を選ぶ気分について。

我が家にはお酒を割る用の缶入り炭酸水がわりといつも常備してあるのだが、時と場合と気分によってはその炭酸水をそのままちびちび飲んだりする。
炭酸水を飲んでいるとつい思い出してしまうのが会社のある先輩のことで、その先輩は、僕がコンビニで買った炭酸水を会社で飲んでいるところを目撃したときにとても不憫に思ったらしいのだ。その先輩の言うところによると、炭酸水というものはお酒を割るために存在するのであって、それをそのまま飲むために買う、というのはつまり、まっとうに味のついた炭酸飲料を買えない人間が、その代償行為として若干売価の安い炭酸水を選ぶ、ということになるらしい。
その話をはじめて聞いた時は、けっこう素直に、「世の中にはいろいろな考え方があるものだ」と感心したのである。戦時中はお酒を手に入れるのが困難で、それでも酔っ払いたい人は代わりになんとかアルコールを薄めて飲んでいた、みたいな話と同系列あつかいなのだろう。
ちょっと困ったのが、その後、その先輩が時々、「お前は炭酸水をそのまま飲むようなヤツだからな」みたいなことを言うようになったのである。この一連のやりとりを知らない人に僕を紹介するときにまで、「あと、こいつ、炭酸水をそのまま飲むようなヤツだから」と補足説明するのだが、僕はともかく、そんなことを言われた人はどういう心持ちになるのだろう。

「そうか、この人は、炭酸水を直接飲むのか」

そう思ったはいいものの、その後、その情報をどうすればいいのだろう。
困ったことになるのではないだろうか。