CITRON.

のん気で内気で移り気で。

ブザー以外は、別に。

これといって何もない日、というものがある。
というか、だいたい毎日がそういう日なのではないだろうか。
何もないといっても、朝は電車に乗って会社に行き、昼は会社で仕事をして、夜に電車に乗って帰宅しているわけで、その間に何もないわけではない。ただ、強く印象に残り、後日、「そういえばあの日あの時あの場所でこんなことがあったなあ」というようなことがなかったということなのだ。

……というようなことを、どこかから警報ブザーの鳴る音が聞こえてくる駅のホームで考えていた。
僕も含め、警報ブザーに反応している人は近くにはいない。「お、鳴っとるな」というくらいのものだ。その音色から考えてなんらかの警告音に間違いはなさそうで、それがけっこう長いこと鳴っているにもかかわらず、それは「取るに足らない、何もない日」の一部でしかない。

いったい我々は、どれくらいの何が起きれば「何かあった日」と認定するのだろう。そこそこの刺激では、いまやすっかり麻痺した感受性を動かすことはできないのだろうか。
……などと大げさに考える必要はないのだが、屋外で聞く警告音の類いにのんきに構えてしまうクセは、ちょっと改めた方がいいかもしれない。