CITRON.

のん気で内気で移り気で。

桃源郷オーバードライヴ。

ちょうど、親指と人差し指で輪っかを作ったくらいのサイズ感で、お風呂にドボンと投入すると炭酸ガスがしゅわしゅわと出てくるタイプの入浴剤が、今、悩みのタネなのである。
今使っているそれ系の入浴剤が、桃の香りのものなのだが、この香りというのが、なんというか、たいへんに甘ったるいのだ。これはあくまで個人の見解に過ぎないのだが、「ちょっとやりすぎなのでは」というくらいの甘さで、たとえば、「ちょいとのんびりしようじゃないか」と思いつつ入浴し、頭の中を「のんびり」でいっぱいにしようとしても、鼻から侵入する甘い香りの量と強度に「のんびり」が押し出され、いつの間にか頭の中が「甘い」でいっぱいになってしまうのだ。頭の中が「甘い」でいっぱい、というとなんだか幸せなことのような気にもなるが、それがあまりにも過剰だと頭痛のモトになるらしい。
のんびりできない入浴剤に意味があるのかと考えると「いっそ、思い切って、捨てた方が」とも思うのだが、根が貧乏性なのでそれもできない。ちなみに現在の消化状況は、ひと箱20錠入り中、3分の1くらいだろうか。けっこう先は長い。

はやくこの甘い香り地獄から逃れたい、しかし捨てるのはもったいないというアンビバレントな思いを抱えつつ現在実行中の作戦が、一度に3錠使用することで早期の決着を図るというもので、作戦名は「桃源郷オーバードライヴ」とした。
甘い香り地獄を増強することで短期での在庫切れを目指すという、一見、無謀にも思われる内容だが、3錠投入しても香りは3倍にはならないということは事前調査済みなのだ。

……こうして文章にまとめていて痛感するのは、我ながら「何をやっておるのだ」というバカバカしさだ。その時はそれなりにマジメに考えていたはずなのに、結果がいつもやや残念になる。正直にいえば、「桃源郷オーバードライヴ」という名前を思いついたときに、その無駄なカッコよさが気に入ってしまい、作戦の内容は後から考えたのである。本末転倒というやつだ。

ただまあ、この作戦の特典として、3倍の炭酸ガスが僕の体をいつもよりほかほかに温めてくれる。そういう効能のある入浴剤なんだから、当たり前といえば当たり前なのだが。