CITRON.

のん気で内気で移り気で。

透明なガラクタ、ドアだったなにか。

とうとう4つ目の眼鏡を調達することにした。今回の眼鏡のチューニングは読書仕様だ。なんとなく、もう何をどう工夫しても「よく見えないものはよく見えない」という結果にしかならないような気もするが、病は気からともいうし、ここはプラシーボ効果に期待したいところだ。本を読む距離感で度を合わせた眼鏡さえあれば、本を読んでいて字がかすんでくることも減るはずなのだ。そうに決まっているのだ。

眼鏡屋さんにレンズを加工してもらっている間の待ち時間に、近くにある東急ハンズをうろうろする。そこで行われていた「鉄道部品大即売会」というイベントがなかなか面白かった。
電車のドアにしか見えない物体に売約済みの札が付いていたり、特急電車のヘッドマークについている値段が250万円だったりと、自分のものさしでは測れないような世界を覗き見するのはなかなか面白い。電車のドア(にしか見えない物体)を買った人は、それを自宅のインテリアとしてどう配置するのだろう。それを運ぶ宅配業者の人は、やはり専門の業者の人だったりするのだろうか。普通の宅配業者だった場合、荷札に書かれた「品名:電車のドア1枚」という文字を思わず二度見したりするのではないだろうか。

そんなワンダーランドの中で、一際目を引いたのが電車の指定席の案内プレートだ。電車内の窓の上あたりに貼ってある「1A:窓側 1B:通路側」とか書いてある小さく細長いあれである。
それがびっしりと並べてあり、1枚1,000円という値段が付いている。生真面目にお行儀よく並んでいるそれらを見たとき、なぜかとても欲しくなってしまった。子供の頃ほど指定席のある電車に乗らなくなってしまったからか、そのプレートはどこか懐かしく、僕の心のどこかをぐぐっと盛り上げる魅力に満ちていたのである。

結局、そのプレートを買うことはなく、時間になったので眼鏡を取りに行った。店員さんに簡単に微調整をしてもらった後、ケースに入れてもらった眼鏡を受け取る。
ケースの中には、今まで使っていた方のレンズがけっこう丁寧に包まれた状態で入っている。レンズ交換をする度にもらっているのだが、特に使い道は思いつかない。ただ、僕はこの「使用済レンズ」がけっこう好きで、いつもすぐには捨てられないのである。
しばらくはどこかの引き出しに入れておいて、ふと思いついた時に取り出しては、透かしてみたり、手の上で転がしてみたりして、なんとなくしみじみとした気持ちになったりする。ガラクタっぽい小さなものが好きな性分なのかもしれない。