CITRON.

のん気で内気で移り気で。

Alone again, naturally.

早朝に目が覚めると、だいたい、犬も一緒に起きてくる。
人の足にしがみついて背中を反り、思い切り尻尾を振るという独特のストレッチを行ったあと、朝のおやつを食べて、その後はリビングの隅でひとりで遊んだり二度寝したり、たまに人肌恋しくなれば抱っこされに来たりする。

おおむねそういう朝を過ごしている我が愛犬なのだが、一昨日くらいから、朝のおやつの後、すぐにベッドに戻るようになった。おそらく寒いのだろう。
僕と犬の間では、朝のおやつは「早朝手当」ということになっていたので、「おやつをもらって即二度寝」というこの態度はそれなりに「給料ドロボー」ではある。まあ、こう寒いと仕方ないけど。

犬が去ったあとのリビングには僕がひとりしかいない。そこでぽちぽちとキーボードを叩くのが最近の日課になっていて、思いついた言葉をがちゃがちゃと打ち込んでは伸ばしたり縮めたりひねったりして遊んでいる。あまり上手にはできないけれど、もしかしたらこれは趣味といってもいいのかもしれない。お金がかからないのは大変いいことだが、これ以上ないくらい地味ではある。
そもそもこれを趣味とするにして、ではなんと呼べばいいのだろう。さんざん考えて出来上がった言葉は、文章になっていないこともあるのだ。

こういう趣味を持ったことで、昼間に実際の会話で使った言葉の数よりも、夜から早朝にかけてキーボードから打ち込んだ言葉の数のほうが多くなってきているような気がする。少なくとも、「何を言おうかなあ」と言葉を選んでいる時間は、夜から早朝のほうが確実に長い。

ここのところ加速度的に口が重くなってきているのはきっとそのせいなのだ。キーボードからゆっくりと言葉を発するときのスピード感で話し言葉を選ぶようになってきて、なおかつ「もう、それでもいいや」というような気がしてきている。
条件反射的にそつなく会話をつなげるということにそれほど興味がなくなってきた、というよりは、もともとそれはとても苦手なことだったのだ。大人になるにあたって「すばやくそつなくわかりやすい」世間話ができるように訓練したものの、結局のところ「そもそもは苦手」というところを克服することができなかった、ということなのかもしれない。

会話の流れの中で、いまいちのタイミングでもたもたとわけのわからない(でも自分の中だけではつながっている)ことを話してしまう……というのもやや極端だけれど、それならそれでもいいや、というのは、サラリーマンとしてはあまりよろしくないことなのだけれど。

不思議なもので、早朝、「いやあ寒い寒い」などとつぶやきながらコーヒーなんかをすすっていると、それほどやけっぱちな気分でもなく「まあ、それでもいいんじゃないかなあ」と思えてくる。別に、言葉が出てこなくなったわけではない。ただ、少し時間をかけたくなっただけなのだ。そろそろ明るくなってくる。今日も晴れるといいと思う。