CITRON.

のん気で内気で移り気で。

ペットボトルと火炎びん。

今は特別な期間ということらしく、大きな駅の構内では踏み台に乗ったおまわりさんをちらほら見かけるし、コインロッカーが使用できないようにされていたり、ゴミ箱が使えないようになっていたりする。
おかげで空になったペットボトルを片手に持ったまま駅の中をうろつくことになったわけだが、これもまあ、都市部の風物詩だと思えばまんざら悪いものではない……わけがなく、事情はわからなくもないがゴミくらい普通に捨てたいところだ。

ところで僕の母親はかなり深刻なレベルでおまわりさんが苦手なのである。嫌いというわけではない。基本的には良識ある善良な一市民なので、おまわりさんを見る度に「やいやいこの税金ドロボーめ」などと悪態をつくことはなく、その仕事についてはそれなりに敬意を払っている。

ただ、苦手なのだ。

例えば、自動車を運転していて前方にパトカーが見えてくると、ほとんど条件反射的に逆方向にハンドルを切り逃亡を試みたりする。もちろん交通ルールに則った範囲での逃亡なので他の自動車の迷惑になるようなことはないのだが、そのせいで目的地に着くまでにやたらと複雑なコースを選ぶことになり、歩いて10分のところにある大型スーパーに15分かけて到着したりする。

おまわりさんがここまで苦手になるにあたって、なにか具体的な理由、たとえば過去に逮捕歴でもあるのかと思い確認してみたところ、そういうことはないようだ。ただ、若い頃、ひとり暮らしをしていたアパートに遊びにきた友人が、母が昼食の準備をしているのを待つ間に居間で勝手に火炎びんを作っていた、ということがあったらしく、その時は、「ああ、もしかすると一緒に逮捕されるのかも」と思ったそうだ。
かつて、日本でも若者がわりと普通に火炎びんを作ったり投げたりする時代があったのだ。たった50年前のことだ。