CITRON.

のん気で内気で移り気で。

初めて話した人の名は、結局忘れてしまった。

今日は会社の飲み会なのであった。歓送迎会という名の、まあ、「オフ」に対しての「オン」といっていいものだ。
僕が着いた席は、右隣が上司、正面と右斜め前がはじめて話す人、左側が壁、という、そこそこ難易度の高いところであった。その場の雰囲気から察するに、自分から積極的に何か話すメンバーはいないように見える。

こういう飲み会の場合、

「へー、そうなんですかー」
「お、どんな話だ?」
「知らなかったー」
「ほう、それでそれで」
「でたー」
「マジですかー」
「へー、あるんだー、実際ー」
「いいんじゃない、たまには、らしくないこともさ」

……というような短文を組み合わせたり繰り返したりしてタイムラインを作っていくことになるが、僕は「そつのない世間話」をするスキルがあまり高くないので、このへんのさじ加減が下手くそなのだ。だいたいいつも何かが過剰になり、帰宅するころにはへとへとになっていることが多い。

今回に関しては、まあまあ会話は盛り上がったのではないかと思う。
登山を趣味としている人から聞いた「3時間登山をしたいが為に、往復で12時間車を飛ばした話」はなかなか面白かった。週末、首都圏を起点として仙台の山を登ろうとするとそういうことになるらしい。そこまでして見る山頂からの景色は、それはもう絶景らしいのだが、まあ、それを僕がマネすることはおそらくないだろう。
とはいえ、自分が知らない世界の話というのはなんだか面白いものなのだ、と個人的には思う。たとえ、言葉や価値観が把握できずに意味がわからない箇所があったとしても。
「わかる」、「わからない」と「面白い」、「面白くない」は実は直結しないのである(たぶん)。

ところで、今回の飲み会については、「俺のついだビールが飲めないってことはないよね」というような圧をかけてくる人が近くにいなかったので、その点ではかなり楽だったといえる。他人にお酒をたくさん飲ませて、心身が壊れているさまをドキュメンタリー的に楽しむという人が酔っ払いの中には一定数いるのだ。まあ、「オレの壊れっぷりを見ろ」と言わんばかりに、自分から率先して壊れていくような飲み方をする自己発信型のYouTuber的な人もいるわけだが、僕もそこそこ大人になって、お酒を飲むと翌日に引きずるという特殊能力が発動する確率が高くなってきている。個人的にはどこも壊さないのが好みではある。