CITRON.

のん気で内気で移り気で。

夜中の世迷い言に小沢健二を少々。

せかいのおわり」というと、いまだにミッシェル・ガン・エレファントの『世界の終わり』をまっさきに思い出してしまい、「まあ、しょうがないよな、同じ名前なんだし」などと思いつつ調べてみると、ミッシェル~のデビュー曲である『世界の終わり』はもう20年以上前に発表されたものらしい。20年ともなると、さすがにもう「まあ、しょうがないよな」ですませてはいけない何かがここにあるような気もする。村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も含めて、発表された時期をざっくりとでも認識し、「せかいのおわり」という言葉を聞いたら、とりあえずはSEKAI NO OWARIを思い出すように頭の中の目次を更新したほうがいいかもしれない。信じられない話かもしれないが、相手が言う「せかいのおわり」と僕が考える「せかいのおわり」が違っていたにも関わらず、お互いに気付かずに(それこそアンジャッシュのコントのように)会話を続けていたことが一度だけあるのだ。若干の違和感を感じつつも会話は進み、僕が言った「解散後だけどギタリストが亡くなった時には驚いた」というコメントあたりで真実に気付いたような記憶がある。
時代認識が雑になる、というのは大人になることで患うことの多い病らしい。もちろん患うことのない大人も大勢いるのだが、僕はどうやらそっち方面の素質があるようなので注意が必要だ。

小沢健二SEKAI NO OWARIの『フクロウの声が聞こえる』はとてもいいと思う。
これの前に発表された、『流動体について』もとてもいいと思う。
何をもって「良さ」とするのかというのは(言うまでもなく)人それぞれで、例えばテレビの音楽番組でこれらの曲を一緒に聴いていたウチの娘は基本的にきょとんとしていたけれど、まあそれはそれで正直な受け取り方だと思う。

それはそれとして。
「今ごろ、こんなことを(楽しそうに)言っている人がいる」ということを確認できた……というのが、今年の小沢健二の作品について、僕がもっとも好きなところなのである。
「今ごろ」というのは、このご時世に、ということかもしれないし、その年齢になって、ということなのかもしれない。「こんなこと」というのは、うまく説明できないが、「自分が本当に大事に思っていること」というのがニアリーイコールになるのかもしれない。
なんとも個人的というか、もうひとつ共有されにくそうなところではあるのだが、今年の小沢健二は、そういう意味合いで僕をいい気分にさせる。それはたとえば、よく晴れた青空の下で飲むビールのような、もしくは、夜中に淹れたコーヒーが自分にしては上出来で、それをひとくち飲んでみたときのような、そういう気分だ。マンガのような表現をすれば、ぱかっと開けた口の中にハートマークが描いてあるような状況かもしれない。

「自分が本当に大事に思っていること」を言うというのは、それが深刻なものであれくだらないものであれ、僕のような場末の中年サラリーマンにはけっこうタイミングが難しいものだ。
タイミングがよくないときにそんなことを言ってしまったばっかりに、「何言ってんだかわからない」とか「もっと他に考えることがあるだろう」とか「いいよなそんなことを言ってればいいんだから」というような反応をされて、「ああしまった今言っちゃダメなやつだコレ」と思うことはけっこうある。この辺は、「そんなことを言う」のが仕事にもなるアーティストとかミュージシャンとかいう人たちと微妙に違うところかもしれない。
この差異を「微妙」で片づけてしまうのもずいぶんと大ざっぱなことだとは思うが、こういう雑な感じはけけっこう大事なことかもしれない。個人的にはこれも大人になって身に着いたものだと思っているのだが、もちろんこれは個人の見解、というやつでしかない。
自分の考えていることについて精度の高さを求めすぎてしまうと口が重くなってしまう、というのが、雑な大人である自分についての言い訳だ。

話がそれた(とはいえいつものことだ)。
「自分が本当に大事に思っていること」……それはつまり、僕にとっては「くすりと笑ってしまうようなストーリー」であったり、「妙な魅力があって思わず二度見してしまう写真」みたいなものであったり、「ほんとうのさいわいは一体何だろう」というようなことであったりするのだが、そういうものについては、夜中に、こっそりと話せばいいだけのことで、そういうことについて話すのはやはり(いついかなる時も、いくつになっても)面白いものなのだ。……って、当たり前のことを言っているだけなのかもしれないが、自分の中で当たり前だと思っていることをたまに棚から降ろして検査してみるのはけっこう大切なことなのである。
まあ、なんにせよ、夜更かしするのであれば、翌日の仕事中に居眠りしない程度にしておきたいところだ。