CITRON.

のん気で内気で移り気で。

水面に光。

いつからか、外でお酒を飲むと視界が暗くなったり音が聞こえにくくなるようになった。
自宅で飲んでいるときや休日の外飲みではそういうことは起きず、仕事の後の飲み会でたまに起きる程度のことなので、日頃はすっかり忘れている。その時になって、「あ、そういえば」という感じで起きる現象だ。
こういうことがいつから起きるようになったのか、よく覚えてはいないのだが、目の病気と本腰を入れてつきあうようになった頃とニアリーイコールのような気もしないでもない。定期検診の時にでも主治医に相談すればいいのだが、なにせ日頃はすっかり忘れているので、病院から帰る電車の中で、口に手を当てて「しまった!」などということになる。

昨日、会社の帰りにビアガーデンに行った際、よりにもよってその現象が起きたのである。なにが「よりにもよって」なのかというと、そこは屋外なのだ。
夜空の下、まわりの人たちよりも一段階暗く、話し声もよく聞き取れない状態で飲むビールは地味にスリリングだ。正確に食べたいものの上に割り箸を着地させる、セルフサービスの生ビール注ぎ機(絶対にこんな名前ではないと思う)まで転ばずにたどり着く、といった行動のひとつひとつがそこそこエキサイティングなミッションになる。

ビアガーデンには釣り堀が併設されていて、暗い水面にまわりのビルから発せられる光がうす黄色に反射していた。ぼやけた視界の中でゆっくりと動きながら光るそれはとてもきれいで、つい、「あ、今日はこれを見に来たのかもしれない」というようなことを思ってしまった。

最近愛聴している『Mellow Waves』(コーネリアス)と相性がよさそうな水面だなあ、とも思ったのだが、カバンの中に入っているウォークマンとヘッドホンを出すのはやめておいた。会社の飲み会でそれをやれるほどアウトローではないのだ。

まわりの人たちの会話の内容は良く聞き取れないが、雰囲気から察するとずいぶんとレベルが高そうだ。
僕の気持ちは低いところで光る水面にどんどんと引き寄せられていき、またもや、「あ、今日はこれを見に来たのかもしれない」というようなことを思ってしまったのであった。