CITRON.

のん気で内気で移り気で。

PTYS(パートタイム勇者)。

かくして、勇者の生まれ変わりこと「よでる」の冒険は始まったのであった。……正確には先週の土曜日から。

とはいえ、週末はたまたま用事があり、平日は(勇者であるにも関わらず)会社に行ったりしなくてはならないので、一日の平均勇者タイムは今のところだいたい一時間くらいだ。もう少し上手く時間をやりくりすれば勇者タイムを延ばすこともできるのだろうが、僕は一日のどこかで「口を半開きにして虚空を見つめたままぼんやりする」という時間をある程度確保しないと体調が悪くなるというやっかいな体質なのである。

よでるとしての僕は、とりあえず勇者云々はひとまず置いておくことにして、家屋への不法侵入や器物損壊、窃盗を繰り返して日々を生き延びている。自分でいうのもなんだがやっていることは空き巣と変わりない。

僕の右手には安っぽい剣が握られている。しかし盾は持ってないので、左手に装備されているのは鍋のフタだ。ついでにいうと、鎧の代わりに着ているのは「なりきんベスト」となっている。

こんな男が「僕、勇者の生まれ変わりなんです」などと言って大丈夫なのだろうか、と我ながら思う。
勇者らしいファッションというものがどういうものかよくはわからないが、「なりきんベスト」と鍋のフタのコーディネートでは、説得力に欠けるような気がするのだ。

不幸中の幸いというかなんというか、今のところ、鍋のフタを握った男が空き巣を働いても特に不審がられてはいないように思われる。まあ、「なりきんベスト」などというようなふざけた名前の服を着ているとはいえ、僕は剣を持っているのだ。もしかしたら、町の人々はかかわり合いなるのが怖くて見て見ぬふりをしているのかもしれない。

……身も心も悪に染まる前に、鍋のフタを投げ捨てて、なんとか勇者らしい活躍をしたいところだ。

と、ここまでが『ドラゴン・クエストXI』を始めました、という話になる。

実はこの他にも、「ぽてりん」という名前のじゃがいもとして、トマト姫を助ける冒険もしている。
最新ゲーム機器で遊ぶドラクエXIに対して、こちらは四半世紀前のゲームボーイ用ソフトだ。その名も『突撃 ばれいしょんず』。
コツコツと努力していればいつかは報われそうなドラクエXIに対して、こちらは「戦うってのはなあ、そんな甘いもんじゃねえんだよ!」というムードがゲーム全体から漂ってくる。
悪と戦う人生を選ぶことの厳しさというものを、ぼくは「ぽてりん」から教えてもらった。手のひらにかく汗の量と敵にやられた時の虚脱感はドラクエXIより確実に上だ。
主人公、じゃがいもなんですけどね。