CITRON.

のん気で内気で移り気で。

娯楽としての無知。

テンパリング」という言葉があることを先日初めて知った。とあるウェブサイトを見ていたら、いきなり登場したのである。そのサイトを見に来るような人にとっては常識的な単語なのか、その意味についての説明はなかった。しかし僕にとっては未知の言葉である。

この言葉について僕が想像したイメージは、「ものすごく焦っている人」だ。
その人は、冷や汗をタラタラ流しながら、右往左往している。もしもその人が走ったら、高速で動く足が、くるくると円を描くことだろう。
つまり、現在進行形の「テンパっている(≒焦っている)」状態、それが「テンパリング」というわけだ。
なんとなくそれっぽいというか無理がないというか、そういう言い回しがあってもおかしくないような気がする。
女の子が「今、わたし、ちょーテンパリングぅ」などと言いながら、眉をハの字にしながら困っていたりしたら、ちょっとかわいいかもしれない。

この謎の単語を、「テンパリングテンパリング……」と、口の中で何度も繰り返していて思ったのだが、「テンパリング」と「でんぱ組.inc」の語感はかなり似ているのではないか。字面で見る分にはそれほど似ているように思われないかもしれないが、実際に発音してみるとなかなかのそっくりさんぶりだ(と、思う)。
ここはひとつ、面倒くさがらないで実際に発音してみることをおすすめしたい。
「てんぱりんぐ」
「でんぱぐみいんく」
……ほらね?
いや、だからなんなんだ、という話ではあるのだが。

いうまでもなく、携帯電話さえ持っていればわからない言葉などいつでもどこでも調べられる時代なのである(まあ、インターネットに存在する情報がすべて正しいわけではないのだけれど)。その気になれば、「テンパリング」だろうが「でんぱ組.inc」だろうが、意味を調べることは簡単ではある。

でも、あえてすぐには調べない。
非常に地味ではあるが、これが僕の数少ない趣味の一つになっている。わからない言葉に出会ったときに、その語感や直感を材料にして、その意味を勝手に想像する。なるべく無理のない筋道で、なるべく正解からほど遠い意味をでっちあげるのがルールだ。お金もかからず体も動かさない趣味だが、そこそこ頭は使うので、会心の(間違った)意味を思いついた時には、心地よい疲労感と不思議な達成感を感じたりする。僕個人としてはけっこう面白い遊びだと思っているのだが、人にすすめたことはない。おそらく、そのほうがいいだろうな、と思えるくらいには僕も大人なのだ。

ちなみに、「テンパリング」とは、ざっくりいうと、溶かしたチョコレートを固めるときの温度調節のことらしい。
これをうまくやらないと、味も見栄えも落ちてしまうそうで、室温で放置して固めるなど言語同断なのだ(認識に誤りがあったらご指摘下さい)。
この言葉を見つけたのはまさにチョコレート屋さんのサイトである。そこにいたのは、テンパっているショコラティエではなかったのだ。

実は、気になって仕方がない言葉はまだあって、その中の一つが「サン・クロレラ」なのである。
会社の最寄り駅に、「サン・クロレラ」とだけ書かれた数メートル規模の広告がある。ちなみに地の色は緑で、そこに白抜き文字で大きく書かれている。写真とかキャッチコピーとか、そういう補足情報は一切ない。
この広告を見た時の第一印象は、「そんなことをいきなり言われても困る」であった。
初対面の相手に、自己紹介もなにもなく、いきなり名前だけ大声で叫ばれた気分である。
いったいなんだというのだ、「サン・クロレラ」ってのは。
東京でも有数の乗降客の多い駅に、それなりに大きな広告を出し、そこに堂々と「サン・クロレラ」とだけ書くくらいだから、僕が知らないだけで、知名度の高い言葉なのかもしれない。しかし、僕にとっては未知の言葉だ。
広告のベースカラーは緑色だ。「クロレラ」は、よく知らないけど、水中にいる微生物に関連のある単語だったような気がする。そのへんにヒントがあるのだろうか。しかし、それはそれとして「サン」はどう扱えばいいのだろう。
言葉の響きから察すると、戦隊ヒーローが使う、必殺技の名前という可能性もある。「サン・クロレラ」という言葉は、そういう響きを持ってはいないだろうか。

「くっ、これは強敵だ。最後の手段を使うしかない。いくぞ、必殺、サン・クロレラ!!」

……実際に発音してみると、ちょっと微妙な感じがする。必殺技説は撤回したほうがいいかもしれない。

さてさて、「サン・クロレラ」とは何を意味する言葉なのだろう。
なかなか興味深いところだが、まだ調べない。もうしばらく、この言葉とは遊ぶつもりなのである。

……そういえば、でんぱ組.incについても僕はよく知らないのであった。アイドル・グループだということくらいは知っているのだが、はて、何人組だったっけ。