まゆつば工房
新しい筆記用具を手に入れると、それだけで、ほとんど条件反射的に、気持ちがうきうきする。キャップを外したりボタンをノックしたりしてペン先を出し、そのへんの紙の上をさらさらと走らせる。描くものは意味のない線だったり、たった今まで聴いていた歌の…
いわゆるママチャリと呼ばれるタイプの自転車と一緒に、彼女はぽつんと立っていた。 右手でハンドルを握り、腰のあたりに車体を寄りかからせている。街灯の明かりの下で、左手に持った紙を見ながらあたりをおどおどと見渡しているように見える。 そこはなん…
ここ数週間ほど、毎日少しづつちびちびと楽しんでいる物語で、登場人物が記憶喪失になった。 それはそれで心配な事件ではあるのだが、ふと考えてみると、小説や映画の中でちょいちょい……とはいわないまでも、わりとよく登場し、そのわりには身近なところで見…
こんなことはめったにないことだと思うのだけれど、今日、知らない女の人が泣いているのを2回も見かけてしまった。 ひとりは会社の休憩室でたまたまとなりに座った人で、電話をしている最中に泣き出してしまった。外国の言葉で話していたので、会話の内容が…
かくして、勇者の生まれ変わりこと「よでる」の冒険は始まったのであった。……正確には先週の土曜日から。 とはいえ、週末はたまたま用事があり、平日は(勇者であるにも関わらず)会社に行ったりしなくてはならないので、一日の平均勇者タイムは今のところだ…
両手を体の脇につける「気をつけ」の姿勢のまま、うつぶせでベッドに横たわる、ということがたまにある。両足はそろえて、しかもベッドからはみ出している。 つまり、帰宅してそのまま寝室に直行し、ベッドの端に体が触れた瞬間くらいにそのまま前に倒れたよ…
今日は通院日なのであった。 それも、わりとみっちりと検査をするほうの日である。 いつものようにいつもの検査をするというだけではあるのだが、今日から主治医が変わるので、なんとなく緊張する。ましてや今度の主治医は女医さんなのだ。なんとなく緊張す…
6月という月は、どうにも立場がないというか、春でも夏でもなく、じゃあ何なんだというと梅雨だったりするような、こういってはアレだが、1年を構成する12か月の中でも、比較的パッとしない月なのではないだろうか。 ちなみに6月生まれの人は、12星座占い…
ダンジョンで死んでも、生き返ることができる。 でも、そう思った時が一番危ないんだ。 だから恐怖は忘れるな。 何があっても、生きることを考えろ。 『ダンジョン飯』というマンガで、女戦士がそんなことを言う。 名言だと思う。 とはいえ、そうも言ってい…
午前半休して眼科に行く。 ここ数日、目にかすかな痛みがあり、まわりの人間の証言によると、目の充血もいつもよりグレード・アップしているらしい。同じようなことは数年前にもあり、その時の経験から推測するとそれほど心配する必要はないような気もするの…
「有効成分最大量」みたいな店頭の売り文句にひかれ、ウキウキと買ってしまった目薬の箱を開けてみたら、通常よりも大きな容器がごろりと出てきたのであった。 「有効成分最大量」とは、つまりは目薬の効き目成分が濃い、という意味合いを期待していたのだ。…
雨の中、六義園を再襲撃した。もちろん本当に襲撃したわけではなく(あたりまえだ)、再訪しただけのことである。再襲撃というのは『パン屋再襲撃』という小説のタイトルを安直に拝借しただけだ。 六義園は、東京都文京区にある都立庭園で、もともとは徳川綱…
季節柄、ネット・サーフィン(これってもはや死語なんですかね)しているとそこかしこで桜の写真を見ることになる。関東では、今週末あたりがお花見のピークということらしい。 天気もイマイチだったので、今日はウチでおとなしくしていようと思いつつパソコ…
どちらかというと、あまりテンションの上がらない、ご機嫌ややナナメ気味の一日であった。 二日酔いだし、楽しみでもなんでもない電話を一日待っていなければならなかったし、そしてその電話は結局かかってはこなかったし、その他諸々、なんとも踏んだり蹴っ…
さて。 久々に冒険者としての活動をはじめることになったわけだが、だからといって「ではさっそく」とばかりにいきなりダンジョンに直行したりはしないのである。なんといっても僕は大人なのだ。あの頃の、ヤンチャで無鉄砲な少年時代の僕とは違うのだ(まあ…
エイプリル・フールに嘘100%の文章を書こうと思い、普段の自分の生活にはまったく縁のない、バイクや革ジャンやアナログ・レコードや海岸沿いの道路や高いウイスキーについて調べていたらいつの間にか週末が終わってしまった。 なんだかとても残念な気持ちで…
会社近くの公園にある桜の木の下には、大人の男がひとり。 スーツを着て、ブルーシートの上に座っている。 その表情からは彼の感情は読みとれず、そばを歩く人たちの視線を浴びながら、静かに座っている。 花見の場所取りなのだろう。 そこは、毎年この時期…
会社のトイレが混んでいて、個室を使いたくても空きがない場合、並んだドアの近くで待つことがある。 時間帯によっては、それほど広いわけでもないドア付近のスペースに三人くらいの待ち行列ができたりする。待っている人々は、ぼんやりと虚空を見つめたりぼ…
人生には、時々、思いも寄らぬ事件が起きる。 去年まで、いや、昨日まで、いや、極端な場合はつい5分前の自分にはとても予想のつかないことが今、起きたりする。こういう、「人生なにがあるかわからんのう」という状況を、アメリカ映画ではジェット・コース…
ある日、てくてくと散歩をしていたら、どこかの路地でばったりと出会う。 ……できれば、そういう風に、この映画と出会いたかった。何も知らない、初対面の関係で、出会いたかったのだ。 もしもこの映画と、そういう風に出会ったとしたら。 きっと、彼(彼女か…
朝から病院に行く。 本当は昨日、予約を入れていたのである。予定通りいけば、有給休暇で捏(ねつ)造されたプレミアム・フライデーで、プレミアム感皆無の定期検診に行くはずだったのだが、それをうっかり忘れてしまった。痛恨のミスである。 金曜の朝、会…
村上春樹待望の新作長編が発売される……という出版界の大ニュースとはまったく関係なく、まったく関係のない作家のエッセイ集を読んでいる。「日本語で書かれています」という以外に共通項のなさそうな本で、たいそうくだらなく面白い。まあ、村上春樹のエッ…
僕はどうしてもそのボタンを押せずにいた。 液晶モニターに表示されているボタンをじっと見つめたまま、もう、1時間くらい経過しているのではないだろうか。 その間、じっと待ち続けていたホワイトが、静かにこう言った。 「そのボタンを押せば、私の記憶を…
このブログのタイトルは「CITRON」という。 ちなみに読みは「シトロン」だ。柑橘系の果物の名前である。 本当は「ゆず」、もしくは、ゆずにちなんだ英単語にしたかったのだが、日本語でゆずといえばあの歌う二人組のイメージが強いし、英訳してもなんとなく…