CITRON.

のん気で内気で移り気で。

眠れぬ夜のために。

どうしても眠れない夜がある。
例えば今日がそうで、犬と一緒にベッドに入って2時間ほど眠り、ふと目が覚めたあと再び眠れそうな気配がない。なんというか、頭の一部だけが冴えてしまっているような感じで、経験的にいって、これは朝まで眠れない可能性が高い。
眠れないなら起きているしかないわけだが、心身はそれなりに(つまり睡眠が必要なくらいに)疲れているので「どうせ眠れないなら本でも読んでいよう」という気力はない。枕の近くに放りだしたままになっているイヤフォンを耳にねじ込み、オーディオ・プレイヤーをいじくってなるべく静かな音楽を選ぶことにする。
『銀河鉄道の夜』のサントラが入っていたので再生ボタンを押し、押した直後に「これはあまり静かな音楽ではない」ということを思い出した。とはいえ、好きなのでまあこれでよしとする。ちなみに細野晴臣の作品で、大昔、LPレコードで買ったこともある。ジャケットには、エスペラント語でタイトルが書かれていたはずだ。宮沢賢治がエスペラント語好きだったことにちなんで……だったかな。

何年か前、上野の国立博物館で『銀河鉄道の夜』が野外上映されたことがある。夜空の下で観る『銀河鉄道の夜』はなかなか雰囲気があってよいものであった。ただ、音がとても大きくて、上映開始早々、テーマ曲が流れはじめてすぐ、一緒に観ていた娘が「怖いってば!」と叫んでいたのがおかしかった。さすがに叫ぶのはお行儀が悪すぎたが、空いている地面にレジャーシートを敷いて観るようなイベントなのであまり固いことはいわれない。敷地内には食べ物を売る車が止まっていて、そこではビールも買えたはずだ。

薄暗い部屋の中で、そばで眠っている犬に手を伸ばす。手足をそっと伸ばしたり、唇をそっとめくってみたりする。そっとやれば何をしてもいいというわけではないわけで、大変申し訳ないと思いつつも、ついついそんなことをしてしまう。
安眠妨害としかいいようのない飼い主の行動について、犬はしばらく我慢していてくれるが、限界に達するとすっと立ち上がり、怒るでもなく僕の手をべろりと舐めたあと、少し場所を移動してまた眠る。その舐め方がいかにも「わかったわかった。わかったからもう寝なさい」といった風情でなかなか可愛らしい。これが昔飼っていた猫だったら「うるさいんじゃあ」とばかりにガブガブ噛まれていただろう。

それはさておき、問題は明日なのである。このまま寝付けなかったら本日の睡眠時間は2時間ということになる。
万が一、会社でうとうとしてきた時のために、まぶたに黒目を書いておこう。マッキーの太いやつで。