CITRON.

のん気で内気で移り気で。

僕と花。

会社から帰ったら、サカナクションのベストアルバム『魚図鑑』が届いていた。
まず思ったのが、「これってポチったんだっけ?」ということで、僕の場合、ネット通販から「自分で購入ボタンを押したのかどうか自信がない」ものが届くことがまれにある。
といっても、検討し吟味して選んだ「欲しいもの」を買うか買わないか、という最終段階で悩みに悩んだ末、その時の血中アルコール濃度によってはその後の顛末を覚えていないというだけのことなので、「届いたはいいけど困った」とか「届いたはいいけどとても払えない金額」ということはない。それなりに欲しいものを購入するか否かという意思決定にあたって、アルコールが背中を押してくれているという言い方もできるかもしれない。ただまあ、そこらへんの記憶がないというのはちょっとなんとかしたほうがいいかもしれない。

ちなみに、4月にはガンダムのフィギュアが届くことになっている。これは、抽選販売の当選メールが着て、「およ、申し込んでいたのか」などと思い知ったやつである。
それにしてもガンダムとは恐ろしいもので、あの赤青黄色で塗られた色白のロボットの姿は、ある層のいい歳をしたおっさんに、まさに「刷り込まれて」いるような気がする。
今回届くのはいわゆるファースト・ガンダム、型番でいうところのRX-78-2なのだが、『機動戦士ガンダム』というアニメが大ブームだった数十年前、少年時代の僕はこのデザインがあまり好きではなかったのだ。
今までのロボット・アニメでは観たことがないようなずしりとくる重たい物語にわけもわからず夢中になっていた僕にとって、ガンダムの目鼻があるように見える顔と、赤青黄色に塗り分けられた色白ボディはどこか能天気に見えて、「いやこれは違うだろう」と思っていたのだ。その後、ロボット・アニメのデザインにおいて一番権限が強いのはスポンサーである玩具メーカーで、少なくとも主役になるロボットについては、玩具化したときに売れやすい配色やデザインであることが求められるのだ……というようなことを少年は知り、いわゆる「大人の事情」というものを垣間見ることになる。

当時の他の多くの少年同様、僕もガンダム関係のプラモデルを買い集めたりしていたわけだが、「いややはりこれは」という思いが強くて、「ガンダム」そのものを買ったことはあまりない。
「あそこのおもちゃ屋に、今日、ガンプラ(ガンダム関連のプラモデルの総称)が入荷されるらしいぞ」というような、どこから湧いてきたのかわからない口コミ情報に乗せられて自転車を走らせていた当時の僕に、
「お前、大人になったらガンダムをポチるぞ。夜中の3時くらいに。ウィスキー飲みながら」
とささやいたりしたら、自転車ごとすっ転ぶかもしれない。

……というガンダムなのだが、これだけ長い付き合いになると、デザインの好き嫌い以前に心がひかれてしまうというか、有無を言わさぬ説得力で僕の脳を揺さぶってくるというか、時々ふと、「ああ、あれはあれでカッコいいかも」と思ってしまうことがある。
そういえば、お台場に大きなファースト・ガンダムが立っていたときは、わざわざ写真を撮りに行ったりして、なんだかわけもわからず感動してしまったような覚えがある。
子供の頃に刷り込まれたものが自分の中でいつもそれなりの場所を占めていて、付き合いが長くなればなるほど「当然そこにあるもの」として馴染んでいく……というような作品は、女の子でいうと「セーラームーン」だったりするのだろうか。単に思い付きで書いただけなので、全然見当違いのことを言っている可能性は高い。

ところでサカナクション。
ベストアルバム到着記念ということで、久しぶりに『アルクアラウンド』という曲のビデオを観る。
文章を読むことが好きな人はもちろん、その段階を通り越して文字そのものを見るのが好きになってしまった人はひとまず一回は見ておいて損はないのではなかろうか。
いわゆるサビ部分で、バラバラだった文字のカケラが収束して文字になり歌詞になり、その後また拡散していく様は、何回観てもぞくぞくする。
それもあんなに原始的なやり方で。


サカナクション - アルクアラウンド(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-