CITRON.

のん気で内気で移り気で。

生涯我慢大会。

歯医者でよく言われるところの「痛かったら手を挙げてください」のしきい値がよくわからない。
つまり、治療されるたびに、

「今、そうとう痛い感じでガリガリされているが、もうガマンできないかと言われればできるような気がする」

……という心理状態が何回か続き、いつしか処置が終了しているのである。

歯医者に来ると思い出すことがある。
それははるか昔のこと。小学生の頃に通っていた歯医者が、付き添いで来ていた母親に、

「この子は本当にガマン強いから、遠慮なく大人用の治療ができますよ」

……と言っているのを聞いて、少し悲しい気持ちになったのだ。
あの時、歯医者で大騒ぎして、ちやほやされたりご褒美を約束されたりする子供たちの真ん中で、少し悲しい気持ちになったのだ。これは正真正銘美しい話でもなんでもなく、僕の欠点なのだろうと思うのだけれど、結局のところ僕は、歯医者で、

「今、少し痛いです」

ということすら言えないまま大人になってしまったということだ。

それはさておき、今、治療してもらっている歯医者さんは女の人で、それがクセなのか、子供相手のしゃべり方が染みついてしまったからなのかよくわからないが、語尾に「しゅ」が付くのである。
それはつまり、

「今日は、先週の続きで、歯の悪いところを削って、消毒用の薬を詰める治療になりましゅ」

とか、
「お疲れさまでした。後はレントゲンを撮って、今日はおしまいでしゅ」

ということになるということで、なかなか可愛らしくて個人的には好ましく思っている。ただ、それにつられて、

「ありがとうございましゅ」

みたいなことを言ってしまいそうになるので、そこは細心の注意を払って対応したいと思っている次第なのでしゅ。