CITRON.

のん気で内気で移り気で。

夜を使い果たして。

有楽町駅と東京駅を結ぶ大通りの街路樹が昨年末から電飾で飾られていて、夜になると発光するそれはなかなかキレイなものなのだ。それがたしか今週末くらいで終わるので、会社の帰りにでも見に行こうとふと思いついた。毎年楽しみにしているというほど熱心なファンではないのだが、何年かに一度、ふとその気になると見に行ったりすることがある。

今日はいつもより遅い時間帯に仕事をすることになっていて、そうすると逆に「どうせ帰りが遅くなるのが確定なら」とか、「明日は休みだし」というような、火事場の馬鹿力的ななにかがきっかけとなって、僕のロマンチック・エンジンが発動したのである。

これは、状況としては、

「丸の内通りのイルミの中、内心ウキウキして歩くおっさん(でもぼっち)」

……ということになるわけだが、まあ、好きなものはしょうがない。

「どんな奴でもひとつくらいは/人に言えない秘密をもっているのさ」(『彼女はデリケート』:佐野元春)

通勤電車を有楽町駅で降りて、電飾で彩られた大通りを一駅分歩き、東京駅からまた電車に乗る。たったそれだけのことなのだ。何かのイベントに参加する、というほどのものではなく、会社帰りにちょっと散歩をするというくらいの事ではある。
ただ、ほとんど白に近いような薄い金色の、過度な光量の中を歩くのはそれなりに気分がいいものだ。そもそも、過度な光とか、過度な熱とか、過度な音量とか、人は過度なものに弱いのだ。いや、弱いという言い方は違うのだろうけど、そういう状況下におかれると、いつもとかなり違う心持ちになりがちなのである。

普段は写真に撮られることを拒む娘が、一緒に写真を撮ろうと言い出したのは何年前のイルミネーションの中のことだっただろう。いつもより格段に明るいとはいえ夜間の撮影だったので、撮った写真は手振れはしているし暗いし僕の表情はこわばっているし、決して上手なものではなかったのだが、個人的には、まあ、愛すべき一枚になったと思う。
娘がそんなことを言い出すのも、娘に負けず劣らず写真に撮られるのが苦手な僕がその気になったのも、たぶんこの光量のせいなのだ。

……というようなささやかな計画を立てた時に限って仕事終わりが深夜1時になったりして、終電すらとっくに逃してしまうのだ。まったくもう。