CITRON.

のん気で内気で移り気で。

そのナンバーは108。

僕が住んでいるマンションは、玄関前の通りが細い路地で、左から右への下り坂になっている。その上、日当たりも悪いので、雪が降った翌日に凍っている事が多く、通勤時の歩行難関スポットになる。とにかくすべるのだ。
僕の希望としては、この坂を上って駅に向かいたいのだが、なかなかうまくいかない。注意深く足場を固めつつ地道に少しづつ歩いているつもりでも、ひとたび凍結した部分に足を乗せた瞬間、僕の体はゆっくりと坂を下りはじめる。
下りはじめてからじたばたすると転倒するかもしれないので、そうなったら一度あきらめて、すべり終わるのをじっと待つというのがコツである。坂の一番下まですべりきってしまうことはないので、そこから再登山を試みてもたいした時間のロスにはならない。
すべっているとき、可能ならば体は下る方向に向けたい。安定性確保のためだ。重心が高いのも不安定になる要因なので、膝を曲げ、腰を落とし、しゃがむ一歩手前くらい、言ってみれば、カタパルトから出撃するガンキャノンくらいの姿勢をキープするのが望ましい。
すべっているときは体のバランスを取るために神経を集中する。しかし、ここまできたらせっかくなので、「カイ・シデン、ガンキャノン出るぜ!」と小さく叫んでおきたい。