CITRON.

のん気で内気で移り気で。

グッドバイからはじめよう。

とある女性アイドル・グループからメンバーが一人卒業することになり、卒業前最後のコンサートがインターネット中継された。
卒業するメンバーを応援していた娘は、当然のようにこのコンサートのチケットを買うための抽選へのチャレンジを行い、残念ながら落選したのである。

パソコンの画面を、私語もなく見つめる彼女の目尻には終始涙が溜まっていた。
それを見ながら「好きなものがあるということはいいことだ」と、わりと普通のことをしみじみと再確認した次第である。

今の僕に、失うことで涙が出るようなものなんてあるのだろうか。
きっとあるのだと思う。きっとあるのだけれど、それが何なのか、すぐには思い出せない。

そしていつか、それを失ったときになっておろおろとあわてたりするのだろう。

コンサートの終盤、卒業するメンバーが最後の挨拶をするあたりで、今まで不気味なほど静かにしていた娘がぺそぺそと小さく泣き始めた。
辞める本人よりも泣いていたかもしれない。