CITRON.

のん気で内気で移り気で。

絶望となかよく。

正確に記せば、「ごごり」というような音が口の中でしたのである。
ちなみに、その時僕は、ガムを噛みながら仕事をしていたのだ。 それは、頭蓋骨に直接響くような低音で、なんというかこう、絶望、という言葉がふさわしいような恐ろしさに満ちていた。
口の中に何か固い違和感もある。どう考えても、僕の歯に何かあったのだ。
あわてて口の中の「違和感」を吐き出すと、治療した歯にかぶせる金属製のフタのようなものが出てくる。「ごごり」という音は複数個所でしたような気がするのだが、出てきた金属片はひとつ。噛んでいたガムはいつのまにかどこかにいってしまった。びっくりして飲み込んでしまったのだろう。

歯にかぶせるフタが突然とれる、という事態に陥るのは今回がはじめてではない。
もしかすると、これは僕だけの話なのかもしれないが、口の中で異音がするととたんに不安になる。結局のところ小さな金属片がとれただけの話なのだが、僕の中の何かが、絶望という名の何かに突き落とされたような、そういう暗い気持ちになる。

さっそく上司に報告し、明日は午前半休して歯医者に行くことにした。
いいことなのか悪いことなのかわからないが、我がチームでは、僕が「病院に行く」と言うと二つ返事でO.K.が出るようになっている。詳しい説明を求められることはない。病院に行くけど今回は歯医者だ、という説明は後でこっそりすることにしよう。