CITRON.

のん気で内気で移り気で。

中途半端につながりたい。

父親のスマートフォンの調子が悪いらしい。
いや、正確に言えば機械の調子はいいらしい。壊れたので修理に出し、それが戻ってきたところなのだ。調子が悪いのはいくつかのアプリのほうで、故障前に使っていたときより不便になっている、とのことだ。
電話やメールでは詳しいことがよくわからないので、実家に行くことにした。詳しいことがわかったらわかったで、それをなんとかするのは僕の仕事になるのだ。

結局のところ、調子の悪いアプリはふたつあり、ひとつは初期設定の段階でつまづいていて、もうひとつはアプリのバージョンアップにともない、父が便利に使っていた機能が削除されていた。父の努力について勝ち負けをカウントするとすれば、まあ、一勝一敗というところだろうか。おじいさんになってからスマートフォンを使い始めた人にしては健闘したといっていい、かもしれない。
ということで、僕の仕事は、ひとつのアプリの初期設定と、もうひとつのアプリの代わりになりそうなアプリを選んでインストールすることになった。ここまではそれほど問題はなかったのだが、最後の最後になって事件が発覚する。「父のスマートフォンに登録されていたGoogleのアカウントが、なぜか父のものではない」という事実が判明し、修理をお願いした携帯電話ショップを巻き込んで、ちょっとした騒ぎになったのだ。
父のスマートフォンを触る人間は基本的に父しかいない。父にはそもそも自分以外のGoogleアカウントを自分のスマートフォンに設定するという発想がないだろうし、有事の際に父のスマートフォンを触る僕にしたって、父のものとは似ても似つかないアカウントを設定する理由がない。
もしかしたら、携帯電話ショップが何かの都合で仮に設定したアカウントかもしれないと思ったのだが、店員さんが言うには修理から戻ってきた端末については、動作確認とメールの設定はするものの、Googleアカウント近辺は触らないらしい。
関係者一同が輪になって沈黙し、結局のところ、「あやしいアカウントなら削除しちゃいましょう」という、中途半端な対応策を苦笑いしながら採用することになった。なんとも歯切れの悪い話になってしまったが、店員さんに事情を説明している最中に、なぜか父の姿が会話の輪の中から徐々に離れていったところから察するに、もしかしたら何か身に覚えがあったのかもしれない。

家族のスマートフォンの設定、トラブル解決担当を引き受けていてよく思うのが、「自分のスマートフォンでは起こったことがないトラブルが、よそのスマートフォンでは起こる」ということと「LINEはどうしてこう人の電話帳の中身をばらまきたがるのだ」ということだ。
特に後者の仕様には、初期設定のたびにハラハラさせられる。要は携帯の電話帳でつながっている人たち全員とLINEをしたいわけじゃない、というのがこちらの言い分なのだが、そういう人って少数派なのだろうか。