CITRON.

のん気で内気で移り気で。

おかしな風邪の治し方。

僕の父親は、昔から、風邪をひくとショート・ケーキとコーラで治す人なのであった。
体調が悪くなるととにかく甘いものが食べたくなるのだ。単に甘いものが欲しいだけなら饅頭でもチョコレートでも角砂糖でもいいようなものだが、体調が悪くなったときにはショート・ケーキ(とコーラの組み合わせ)が一番効くらしい。もっといえばコンビニやスーパー・マーケットで売っているケーキよりもケーキ屋で売っているケーキのほうが効き目は上とのことなので、これはもう、明らかに気持ちの問題のような気はする。とはいえ、「病は気から」という言葉もあるくらいだし、それで「治る」という気持ちがアップするのなら、それなりに効果的な治療法といっていいかもしれない(胃腸に負担はかかりそうだけど)。

そういう人の遺伝子を受け継いでいるからなのか、僕は体調が悪くなると過食になる傾向がある。食べ物が喉を通らないような状態なら話は別だが、軽い風邪くらいなら食欲が減退することもなく、むしろいつもよりたくさんモノを食べる。
「たくさんたべて、たくさんねると、たくさんえいようがとれて、はやくよくなる」
……というような、おそろしく幼稚な発想が元になっているのは間違いない(だって、ルパンだってそうやってケガを治しているじゃないか!)。

ちなみに、全体的に食物摂取量が増加する中で、その時限定の、「今回はこれが特に食べたい」というものも存在する。今回の風邪の場合、ポテト・チップスがそれにあたる。それも、プリングルズとかチップ・スターのような、筒状の容器に入った、いわゆる成形ポテト・チップスというやつだ。
まだ試したことはないが、今ならば長いほうの筒を一本単位で即座に完食する自信がある。なぜ試さないかというと、完食してしまうとさすがに体に悪そうだからだ。

とまあこのように、僕は風邪をひくと着々と太っていくのである。「たくさん食べて、たくさん寝る」という僕独自の風邪の治し方の要点は実はここにあって、「これ以上太ると着るものがなくなる」という切羽詰まったタイミングで、真の治癒能力が覚醒するような気がしてならない。