CITRON.

のん気で内気で移り気で。

あとがきにかえて。

結局、『シン・ゴジラ』の新作カプセル・トイは、某繁華街の某ゲームセンターで発見できたのであった。

お目当てはゴジラ第4形態凍結バージョンだ。おそらく今回の目玉賞品だと思われる。1回や2回のチャレンジでは当たらないかもしれない。

人気のあるカプセル・トイはなくなるのも早いので、チャレンジする度にその場で中身を確認して、次のチャレンジが必要かどうか見極めなければならない。帰りの電車で確認して、ダメならまた明日、などというリズム感ではお目当てが手に入る前に品切れになる可能性が高い。
問題は、何回チャレンジするか、というところなのだが、なんだかんだいいつつ器が小さい僕のことなので、最大限頑張って5回、というあたりが限界だろう。子供だってもっとつぎ込むっつの、という声もあるとは思うが、人にはそれぞれ事情というものがある。みんな違ってみんないいというやつだ。

1回目のチャレンジを行い、中身を確認しようとしたところで、背後ににぎやかな気配を感じた。
振り向くと、観光客と思われる複数の外国人がこちらを見ている。全般的にテンションが高く、興奮気味に早口で何かしゃべっている。UFOキャッチャーやガチャポンがひしめくゲームセンターというのは、日本を観光する外国人にとってはけっこうな異空間体験になるのかもしれない。
興味深くあちこちを見ていた外国人のひとりが、こう言うのが聞こえてきた。
「Oh! ゴッジーラ!」
その視線の先には、たった今僕がチャレンジしていたガチャポンがある。それどころか、明らかに興味津々という顔でこちらに向かってくるではないか。
これはまずいことになるかもしれない。僕は反射的にそう思った。
彼らは、『シン・ゴジラ』のガチャポンをやろうとしているのかもしれない。それは別にまずいことではなく、日本が誇るムービー・スターに興味を持ってくれるのはむしろたいへん喜ばしいことだ。が、僕がカプセルの中を確認している間に彼らがガチャポンにチャレンジし始めたら、僕のセカンド・チャレンジはその後になる。その間、僕が持っているカプセルに気付いた誰かが、
「ヘイ! ラッキー・ボーイ。お前さんの手の中にはどんなゴジラが隠れているんだい? おいおいまさか、1998年製作のローランド・エメリッヒ版『GODZILLA』じゃないだろうな。HAHA!」
……いや、ここまで極端でないにしろ、なんらかのコミュニケーションを仕掛けてきたらどうすればいいのだ。相手はディープなトーキョー体験にエキサイトしている陽気な外国人だ。そういう可能性はわりとありそうな気がする。

気の小ささでは余裕で関東ベスト8くらいには入れるポテンシャルを秘めた僕である。日本人に話しかけられても挙動がおかしくなりかねないのに、外国人になど話しかけられたら、おそらく石になるとか爆発するとかいうような非常事態に陥り、二本足で歩く人間の姿では帰宅できなくなるだろう。
とはいえ、このファースト・チャレンジで手に入れたカプセルに凍結バージョンが入っていると思えるほど楽観的になれる性分でもない。悲観的ということでいえば東日本ベスト8くらいには余裕で入る自信がある。

結局のところ、中身の確認をあきらめた僕は、手早くガチャポンに硬貨を投入し、二つ目のカプセルを手に入れた後、足早にゲームセンターを立ち去ったのであった。
背後から小さく、ガチャポンのハンドルが回る音と歓声が聞こえてきた。間一髪だったのかもしれない。

一つ目のカプセルを開けると、そこには凍結バージョンのゴジラが入っていた。
なんというか、僕はそういう人間だ。