CITRON.

のん気で内気で移り気で。

知らないあなたがイリュージョン。

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あれは幻だったのか。
「一度、一度だけでいいからナマで見てみたい、ああ」というような僕の悲痛な心の叫びが見せた幻影だったのか。
妄想癖のある自分の性質を考えると「ありうる。こいつ(僕ですね)ならやりかねない」と思いそうになるのだが、さすがに今回に関してはそれはないだろう。
たしかに、「公園で漫才の練習をしている若手コンビを見てみたい」という思いを抱いてはいたが、幻を見てしまうほどの案件ではない。そりゃあ、今日、会社に来るための大きなモチベーションにはなったのだが、このくらいの望みがかなわないくらいで幻を見ていたら、今ごろ僕は幻が原因で窒息しているだろう。

今朝、例の公園にあのコンビはいなかった。
昨日、ベンチに荷物を置いて、漫才の練習をしていた、男の子と女の子の二人組だ。
思ったよりも人通りが多くて練習には向かないと思ったのか、それとも、互いのお笑い観の相違から大ゲンカになり、はやくもコンビが解散したか。
あまり目の良くない僕のことなので、見間違いという可能性は否定できないが、男の子の大げさなしゃべり方と、それを受ける女の子の大げさな身振りは、どう見ても漫才だろう。もちろん、二人の視線が架空の観客席に向いているのは言うまでもない。
このテンションが二人の中ではごく普通の風景なのだとしたら日本人のスケールを超えているし、じゃあ何人のスケールになら納まるのかという見当もつかない。

だがしかし、たとえば。
あの二人は、あの日たまたま、公園のベンチに荷物を置いて漫才の練習をしただけ……というようなことはあり得るのだろうか。

公園の中を歩くカップルがふとブランコに目をとめる。「ああ、なつかしいなあ、昔よく乗ったよね。……ちょっと乗ってみようか」と誘う男の子。
……というように、
公園の中を歩くカップルがふとベンチに目をとめる。「ああ、なつかしいなあ。昔よく荷物を置いて漫才したよね。……ちょっとネタ合わせしようか」と誘う男の子。

もしくは、
公園の中を歩くカップルがふと鉄棒に目をとめる。「へー、こんなに高い鉄棒やったことないや。……試しにやってみないか」と誘う男の子。
……というように、
公園の中を歩くカップルがふとベンチに目をとめる。「へー、こんなに破損したベンチに荷物を置いたことないや。……ためしにネタ合わせしようか」と誘う男の子。

そういういきさつがあって、昨日ふたりは、一度だけ、漫才の練習をした。
そういうことなのだろうか。
……そんなわけあるかい、と思いたい。

やはり昨日、あの公園にはたしかに「漫才の練習をしている若手コンビ」が存在したのである。

漫才コンビたしかに存在、見れないマジかもう重罪

なぜここで急にラップ風にしてみたのか自分でも意味がわからない。一応、「漫才、存在、重罪」と「たしか、マジか」で韻を踏んでみた。まあ、韻を踏めばいいというものではないのかもしれないけど。

とりあえず、明日も様子を見ることに決めたのだ。