CITRON.

のん気で内気で移り気で。

消失したものは。

会社のトイレで個室に用があるとき、けっこうな確率で待ち行列に出くわすことがある。僕はどちらかというとノマド派で、行列に並ぶよりは他のフロアの空きトイレを探す道を選ぶのだが、今回言いたいのはそこではない。

トイレの空きを待つ人は、かなり高い割合でスマホをいじっている。個室が空くとたいていの人はそのままの体勢で移動するから、個室の中での本業のかたわら、引き続きスマホを見ているという可能性は高い。トイレがなかなか空かない遠因になっている可能性は高そうだ。

僕はといえば、トイレに行くときにはほとんど必ずスマホを持参している。ただし、個室の中で見ることはない。僕のような意思の弱い人間が個室の中でスマホなんか見はじめたりしたら、そのまま退社時間までそこに引きこもってしまうような気がする。
僕がトイレにスマホを持っていく理由は、トイレの中にいるときに地震が起きて閉じ込められても、外と連絡がとれるかもしれないからだ。正真正銘、理由はそれだけで、本人的には大真面目である。
あの震災の後、新しい習慣として生まれた「もしもの時の為にやること」は、そのほどんどがいつの間にか蒸発してしまった。もしかしたら、いまだに続いているのはこの「席を離れる時は携帯電話を持参する」という習慣だけかもしれない。
そういえば、あの頃、ベッドサイドにスニーカーを置いて寝ていたはずなのだが、それもいつの間にかなくなってしまった。
あのスニーカーは、どこにいってしまったのだろう。