CITRON.

のん気で内気で移り気で。

月曜からの脱出。

仕事中に珍しく仕事の話をしていると、手の中で「みしし」という音がする。
見てみると、握っていたボールペンが折れていた。
ばっきり真っ二つという折れ方ではなく、先端部と胴体部をつなぐネジ部分が、少し折れている。1メートル先から見るとわかりにくいが、10センチくらいの距離なら、「おお、折れている」とわかるくらいの折れ方だ。
折ってしまったのが鉄骨かなにかで、その力をいつでも発動できるというなら、アベンジャーズ的な第二の人生を送れるかもしれないが、今回の一件は、長年使っていて経年劣化していたボールペンの、その中でも強度的に一番弱い部分に、(何故だかわからないが)強めに力をかけてしまったというだけのことである。
事件が起きた時はけっこうびっくりしたので、一瞬だけ、「いよいよ潜在能力が覚醒したか」と思ったのだが、覚醒時によくある身体の発光現象もなく、それっぽい効果音やビルの窓ガラスが端から割れていくというような演出もなかったので、今回に関しては「どうも違うらしい」という結論に達し、その後しばらく、「まだインクが残っているのにもったいない」という、きわめて現実的な後悔を心の隅に抱くことになる。

しかし、理由はよくわからないものの、一時的にでも身体に無駄な力が入り、それを制御できなかったのは事実である。もしかすると、心か身体になんらかの高い負荷がかかっていて、その負荷が体の制御を誤らせているのかもしれない。
そういえばその時の会話はあまり楽しいものではなく、多量ではないものの気持ちを暗くするような成分が含まれていた。これもまた負荷の原因になっている可能性もある。

心身へのしかかる負荷をリセットするためには、適度な休息が必要だ。
月曜からなにを言っているんだ、というご意見もあるかもしれないが、個人的な見解を述べれば、月曜日は他の曜日にくらべてこの手の負荷が格段に高いように思われる。週末が終わり、平日がはじまることへの気持ちの落ち具合とそれが生み出す負荷について事細かに語ることもできなくはないが、とても長い話になりそうだし、その上、自分の怠け者ぶりが濃厚にばれてしまうので、この件についてはこれ以上ここで言及はしない。ここで言いたいのは、月曜はわりとしんどい、ということだ。

手の中のボールペンを見つめながら、仕事を放り出して帰る決心をする。僕には今、休息が必要なのだ。なにより、これ以上不幸なポールペンを生み出すわけにはいかないではないか。
幸か不幸か、ここ数日の仕事は突然放り出しても問題のなさそうなものばかりだ。遠慮も気兼ねもなく放り出そう。
……そう決めてからの帰り支度の速さについてはけっこう自信がある。控えめにいって神わざ級といっていい。この、「帰ると決めてから会社から脱出するまでの時間が短い」という特殊能力が生かせる場があれば、いつでもアベンジャーズの一員になれるのだが、今のところ、宝は持ち腐れたままでいる。

要は残業を切り上げて帰る口実を探していただけのような気もしないでもないが、とにもかくにも忌まわしき月曜日からの脱出には成功したのであった。