CITRON.

のん気で内気で移り気で。

そでなしくのいちあらわる。

朝の光は意外とつよく、まだ低い位置にいる太陽からビームのように日光が襲ってくる。顔面がじりじりと暑い。
最近、こんなことばかり書いているような気がするが、そういう季節なのだから仕方がない。これが7月や8月なら「暑いよ! でも夏だからしょうがないよ! あらかじめわかっているさ!」というようにあきらめもつくのだろうが、5月というのがなんともけしからん気持ちにさせるのだろう。
「まだ5月なのに」、「5月のくせに」、「5月の分際で」という気分が、「くそう暑いぜ」の「くそう」の部分の語気を強くさせるのだ。

信号待ちをしている間、そばの電柱の陰にかくれている女の人がいた。
太陽と自分の間に電柱を置き、体の側面を電柱に向けるように立つ。
体勢的には、「陰にかくれる」というより、「陰にひそむ」というほうが的確かもしれない。できるだけ日光から肌を守ろうという真摯な努力の結果として編み出された信号待ちスタイルなのだろうが、客観的には「ノー・スリーブくのいち」に見えなくもない。彼女はノー・スリーブのワンピースを着ていたのだ。

くのいちさんの雰囲気から予測される年齢と、周囲の地理的状況から考えて、おそらく彼女は勤め人だ。女忍者ではない(あたりまえだ)。彼女の会社では、夏期のノー・スリーブ着用が認められているということなのだろう。うらやましいことだ、と思う。
ノー・スリーブという服装の爽やかさは見ていて大変好ましいものだ。だからこそつい「うらやましい」などと書いてしまうわけで、自分が着たいということではない。これはあくまで予測に過ぎないのだが、あれを着ようと思うといろいろメンテナンスが大変そうだ。

女子のノー・スリーブが許される会社では、男子のドレス・コードはどのような塩梅になっているのだろう。ハーフ・パンツあたりは許されるのだろうか。ハーフ・パンツがいいのであれば、スニーカーも大丈夫かもしれない。

こういう朝にワイシャツにネクタイを締めてスーツ着用というのは、着ている本人がいうのもなんだがどうかしていると言わざるを得ない。おまけにスーツの色は濃紺だ。ドM以外の何ものでもない。
本当は、ノー・ネクタイ、ノー上着くらいまでの軽装は許されているのだが、根が不真面目なタチなので、そんなゆるい扮装(扮装?)をしたら真面目に仕事をしなくなる可能性があるのだ。なるべく真面目そうな扮装をして、自分が真面目なサラリーマンであると思い込むことで仕事をする気持ちをなんとか維持しているのである。扮装で役になりきるという意味では、コスプレに近いかもしれない。

ハーフ・パンツにスニーカーが許されている会社ではなくてよかったなあと思う次第なのだ。