CITRON.

のん気で内気で移り気で。

しだれ桜でゴーゴーゴー。

どちらかというと、あまりテンションの上がらない、ご機嫌ややナナメ気味の一日であった。
二日酔いだし、楽しみでもなんでもない電話を一日待っていなければならなかったし、そしてその電話は結局かかってはこなかったし、その他諸々、なんとも踏んだり蹴ったりなことばかりなのであった。
その電話なんて、昨日から通算二日待ち続けているのである。
これはさすがに、文句を言ってもいいのではないだろうか。
ガツンと、厳しい態度で、なんならおっかない感じで抗議をしてもいいのではなかろうか。
手紙の宛先に「東京都在住の紳士様へ」とだけ書いて投函すれば、郵便屋さんが「東京で紳士といえばあの人しかいない」と僕のもとに届けてくれる、という都市伝説を保持している身としては「ガツンと、厳しく、おっかなく」というのはけっこうハードルが高いのだが、この際しかたがない。「気弱で引っ込み思案だからハードルが高い」わけではない。「気弱で引っ込み事案だからハードルが高い」わけではないのである。
なぜ同じことを二回書いたかというと、自己暗示のためだ。
明日、いよいよ電話があったなら、「ガツンと、厳しく、おっかなく」応対しよう。それが無理なら、せめておっかない顔だけでもしていよう。明日、会社の休憩室に、鬼のような形相なのにおどおどと気弱そうに電話をするスーツ姿の男があらわれるかもしれないが、それは決して「人間に化けるのを微妙に失敗した異星人」とかそういうものではない。
それは僕だ(←わざわざ改行して書くほどのことか)。

ところで。
二日酔いの原因は、昨日ビールをたくさん飲んでしまったのである。
仕事のあと、おっさんばかり四人で六義園にしだれ桜を見物しに行って、その後、飲みに行ったのだ。六義園というのはもともとは江戸時代の偉い人の庭園で、現在は東京都が管理している。で、毎年この時期に、しだれ桜をライトアップして公開するのが名物になっているのだ。
しだれ桜は大きく、立派で、見応えのあるものであった。
ただ、その周辺は大変な混雑ぶりで、「桜は見てもいい。しかし立ち止まるな」というルールが施行されていたのが残念ではあった。庭園を管理する側の事情も推測できなくはないが、それは「閑静な庭園で夜桜を愛でる」から一番遠い鑑賞スタイルである。
仕方ないので、こちらとしては一休さんばりのトンチを駆使して「その場足踏みで数ミリづつ移動」することで「立ち止まってはいない」というスタンスはキープしつつ、なるべく長時間の滞在を試みてみた。まさか、ここで牛歩戦術が役に立つとは思わなかった。

今回のタイトル『しだれ桜でゴーゴーゴー』は、この時、一緒に鑑賞していたメンバーの誰かが発したものである(強調するつもりはないが僕ではない)。ずいぶんと振り切ったセンテンスだが、夜なのにキレイに光るものには人の心を平静ではない状態にする効果があるのかもしれない。たとえば、ライトアップした桜とか、夜中のたき火とか、ぴかぴかと光る月だとか。

そういえば、「月がキレイですね」というのは文字通りの意味を超えた魔法の呪文であるらしい。
やはり、夜なのにキレイに光るものにはご用心だ。
ついうっかり「ゴーゴーゴー」などと口走ってしまったり、ついうっかり呪文にかかって恋に落ちてしまったりするかもしれない。

大昔、大好きだった歌の歌詞に「ムーンライトを吸いすぎたから、僕らは少し気が変になって、口をきくこともできなくなっちまった!」というような内容のものがあったことをふと思い出した。あれはなんという歌だったっけなあ。
セーラームーンとかじゃなかったはずなんだけど。


補足。
牛歩戦術は写真撮影には不向き。