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CITRON.

のん気で内気で移り気で。

雨が降ったら。

「クリスマスのプレゼントをあげたい気持ちはあるが、お金がない」

と、娘に言われたのが数週間前。

「それならば、無理しなくてもいいよ」

と、寛大な気持ちで言った僕に、娘はあきれたようにこう答えたのであった。

「クリスマスって、そういうものじゃないと思う」

余裕ある大人の態度で、お小遣いを使いすぎてしまった娘をやさしく慰めているという場面だと思っていたのに、なぜ僕はあきれられたのだろう。
何か言おうと口は開けてみたものの、僕の頭脳はむなしく空回りを続け、やっと一文字発声するのが精一杯であった。

「え?」

……ということで。
今年の娘からのプレゼントは、お金はこちらが出して、プレゼントとレシートとお釣りをもらうというシステムを採用することになった。
品物の選定を娘におまかせしているとはいえ、お金をこちらが出すのである。なかなか画期的だが、「それは単に買い物なのではないか」という気はする。「プレゼントの定義とはいったいなんだ?」といいたくもなるが、プレゼント関連の話題でよく語られる「贈り物は気持ちが大事」的な意味合いでいうと、「まあ、気持ちはあるからな」と納得できなくもない。というか、今回の場合、娘の担当する部分としては気持ちしかないわけだが。

プレゼントにはコーヒー・カップをリクエストした。
ちょうど新しいのが欲しいと思っていたところだったし、娘がどのようなカップを選ぶのか興味があったのだ。
親子ほど年の差がある(実際、親子なのだが)中年男性へのプレゼントである。そこのところを娘がどう解釈するのか、なかなか興味深い。それはつまり、僕が「現役女子高生が喜びそうなプレゼントを選ぶ」という問題を出されることと同じ難易度なわけだ。
もしかすると、娘はかなり本気のアニメ・オタクなので、そっちの趣味全開でプレゼントをチョイスするかもしれない。「父親が喜びそうな萌えキャラ」が描かれたマグ・カップみたいなものを選んできたらそれはそれで面白い。自分で書いておいてアレだが、「父親が喜びそうな萌えキャラ」って何なんだろう。書いてる僕自身、今ひとつうまく想像ができない。

誰かに何かを選んでもらうのは面白い。いうまでもなくこれは僕個人の感想でしかなく、「自分のものは全部自分で選ばないと気がすまない。なぜってそれは、自分の人生をデザインするものだから」みたいなことをいう人もたくさんいるだろう。

誰かが選んでくれたものには、その誰かの気持ち……というと大げさかもしれないが、ちょっとした思いつきや、ふとしたアイデアが込められていることがある。
あの人には何が合うのか。あの人に何をさせたいのか。あの人でどう遊びたいのか。あの人のことをどう思っているのか。
そういう思いを込めて選ばれたものたちは、当人にぴったりとフィットすることもあるだろうし、(残念ながら)まったく合わないこともある。「なんなんだこれはふざけんな」というものが意外としっくりときた、ということもあるかもしれない。
どういう結果になったにせよ、そのプレゼントは「あげる人」が「もらう人」をキーワードにして探し出したものなのだ。それがたとえ気に入らないものだったとしても、「あげる人」は「もらう人」とそれを何らかの選定基準によって線で結んだのである。そこには、「ただ単に気に入らないもの」とは違う細いつながりがある。
ひょっとしたら、気に入らなかったプレゼントは、自分の後頭部みたいなものなのかもしれない。自分ではなかなかみることのできない、自分の一面というか。

そういう意味で、誰かが選んでくれたプレゼントが、自分にとって想定外であればあるほど面白い(これも個人の感想です)。他人のカメラで写した自分が、ぼんやりとそこに写っているような気がするのだ。
「こんな派手なTシャツ、絶対に似合わないと思うんだけど」と思いつつ、「まあでも、あえてこれを選んでくれたんだから」と決心して着用して、「うん、やはり無理があった」などと顔を赤らめながら光の速さでそのTシャツを脱ぎ捨てたりすることもあるが、それはそれで悪くない。よほどの意地悪か明らかなウケねらいでもない限り、一瞬でも「引きこもり気味のアイツに、このサーファー御用達ブランドのTシャツ……一周回って逆にアリ!」と思った人間がいるというだけで楽しくなる(なんだかわかりにくいたとえ話だが、単なる実話なので気にしないでいただきたい)。

まあそれはそれとして。

Rainy day means coffee time.

娘からレシートとお釣りと一緒にプレゼントされたマグ・カップに、こんな英文が書いてあった。

「雨だね。ひとまずコーヒーにしようか」

ちょっと意訳しすぎかもしれないが、まあだいたいこんなような雰囲気なのではないだろうか。
娘によると、梅雨真っ只中の6月に生まれた僕にぴったりだと思ったのだそうだ。なるほど、と思った。けっこう感心もした。デザインも悪くないし、普通に愛用できそうだ。

「萌えキャラ付きマグ・カップ」という展開も覚悟していたこちらとしては、逆にやや拍子抜けしてしまったのであった。